ただいま国立劇場で上演されている「梅雨小袖昔八丈」
数ある歌舞伎演目の中でも非常に有名なものですので、
この機会に少しばかりお話したいと思います。
何らかのお役に立てればうれしいです!
目には青葉 山ほととぎす 初鰹
髪結新三は、いきいきとした江戸の風俗を楽しむことができるお芝居です。
特に、物語の舞台となっている初夏の季節感が随所に演出されています!
江戸時代の初夏といえば
目には青葉 山ほととぎす 初鰹
という、現代でも大変有名な句が人気を呼んでいました。
これはあの松尾芭蕉とも仲良しだったという、俳人の山口素堂によるもの。
真面目なタイプであった芭蕉に対し、
素堂は滑稽味のある言葉遊びを大切にしていたのだそうです。
夏の季語「青葉」「ほととぎす」「初鰹」がぽんぽんと並び、
夏の風物を視覚・聴覚・味覚で想像させてくれるという
大変おもしろく爽やかな句ですね。
青葉が豊かな夏の山を眺め…
耳ではほととぎすの声を聞き…
そうきたらもう、初鰹を食べるっきゃないでしょう!こりゃたまらんネ!
と共感し、言葉のおもしろさに魅せられた江戸っ子たちは
こぞってこの句を川柳に織り込んだりして楽しんだといいます。
現代では若者たちが初夏にこの句を話題にして
夏を楽しむようなことはあまりないと思われますが、
かつては初夏あるあるのようなものだったのでしょう。
髪結新三の二幕目、新三のおうちの場面でも
幕が開いた瞬間にこの句の香りが漂ってきます!
まず、上手にあたる新三のお庭には青々とした植木(青葉)、
勝奴とご近所さんが話しているとどこからかほととぎすの声がし…
\カツオッ!カツオッ!/
と満を持して鰹売りが登場!という段どりです。
実はこの句には「鎌倉にて(又は鎌倉一見の頃)」という前書きが。
鎌倉の相模湾で獲れるおいしい鰹を描いた徒然草百十九段などをふまえ、
素堂はこの句を詠んだようであります。
髪結新三によって自分の中で江戸のイメージが定着してしまったため、
江戸じゃなかったのかー!と仰天いたしました。
参考:国会図書館/読売新聞