歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい絵本合法衢 その三 うんざりお松と悪婆の系譜

ただいま歌舞伎座で上演中の四月大歌舞伎

夜の部では「絵本合法衢」が通し狂言にて上演されています。

 

”片岡仁左衛門 一世一代にて相勤め申し候”と銘打たれており

仁左衛門さんはこのお役をもう二度とお勤めにならないということがわかっている

なんとも切ない思いに駆られる演目であります。゚゚(´□`。)°゚。

 

またとない機会ですのでこの演目について、

少しばかりではありますがお話いたします。

何らかのお役に立てればうれしく思います。

 

うんざりお松

仁左衛門さんのお勤めになっている

左枝大学之助立場の太平次という2つの悪の華、

それはそれは色っぽく、たまらず、うっかり脳が沸き上がりそうですが

時蔵さんがお勤めになっている「うんざりお松」もまた

なにやら気になる魅力的な役柄であります。

 

あっけなく殺されてしまうのに、

なぜだかとても印象に残っているなぁ…と感じましたので

同じように感じられる方もおいでなのではと思い

少しばかり調べてみました。

 

うんざりお松は鶴屋南北の作品にはよく登場する

悪婆(あくば)」と呼ばれる女形の役柄です。

悪婆といっても、文字通り悪いおばあさんというわけではありません。

 

うんざりお松にも「今年25歳になるが…」というセリフがあったように

江戸時代では年増と言われるくらいの年齢から中年で気が強く、

刃物を平気で振り回したり、ゆすりに入って啖呵を切ったりする伝法肌だが、

そのくせ情が深く、好きな男のためなら悪事にも手を染めてしまう…

 というような女性の役柄を「悪婆(あくば)」といいます。

こういった女性がお好きな方にはたまらぬ魅力を持っているのではないでしょうか。

 

うんざりお松はへびつかいを生業としている非人階級の女性で、

かまぼこのような形の小屋に住んでいます。

他にも悪婆が出てくる演目はありますが、

ずば抜けてすごいおうちに住んでいるという印象です。

 

もともとは大きなお百姓さんのおうちに生まれたのに、

14歳でかけおちして、16人も亭主を持ち、

堕ちるところまで堕ちてしまった…という状況なのであります。

なのに不思議とあっけらかんとして

なぜだかチャーミングな印象を与えていますね。

うんざりお松というおもしろい名前も、その印象に一役買っているかもしれません。

 

このうんざりお松を初演したのは、

類まれなる美しさで知られた後の三代目尾上菊五郎。

この方の前名である当時の「二代目尾上松助」から「お松」という名がついています。

この方は南北の名作「東海道四谷怪談」のお岩さんを初演した方でもあります。

怨念怨念うらめしや…というイメージのお岩さんとうんざりお松は好対照ですね。

 

そんな悪婆の役はほかに

於染久松色讀販(おそめひさまつうきなのよみうり)」の土手のお六

などが有名です。ちょうど先月上演されていました!

 

実は悪婆の役にはざっくりと

うんざりお松三代目菊五郎系

土手のお六岩井半四郎系

という二つの系譜があるそうでそれぞれ味わいが異なるようです。

おもしろみのある悪婆の役、いろいろと見比べてみたくなりますね(n´v`n)

 

参考:うんざりお松とモル・フランダーズ : 悪婆と悪女の文化誌

(上村 以和於 山村女子短期大学紀要 5, a1-a28, 1993-12-04)

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