ただいま歌舞伎座で上演中の
歌舞伎座百三十年
六月大歌舞伎!
夜の部「夏祭浪花鑑」はうだるような夏の大坂を舞台にした、男のドラマであります。
大変有名な演目ですので、この機会に少しばかりお話いたします。
芝居見物の楽しみのお役に立てればうれしく思います!
実際に起こった殺人事件
夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)のお話の流れを
ほんとうにざっくりとお話しますと、
浪花の男伊達である団七九郎兵衛が、
恩を受けた玉島兵太夫のご子息である磯之丞とその恋人の琴浦のために
舅である義平次を手にかけるというものです。
「悪い人でも舅は親、許してくだんせ」というのが名セリフのひとつであります。
夏祭浪花鑑の上演から50年ほど経った文化文政期に
大坂にて歌舞伎作者として活躍していた浜松歌国という人物が書いた
大坂の出来事を記した本「摂陽奇観」なるものがあります。
ここには夏祭浪花鑑が初演された1745年の前年に起きた、
殺人事件の実説が書かれています。
それによると1744年の冬、大坂は堺の魚売りが長町裏で人を殺し、
翌春に悪事が露顕して処刑されたといいます。
この殺人の動機は博奕の恨みだということです。
団七九郎兵衛は侠客ですが、そもそもは舅の義平次に引き取られ魚売りを生業としている設定。
舅の義平次を殺す緊迫の名場面は長町裏を舞台にしています。
そのためこの事件は夏祭浪花鑑のモチーフのひとつと考えられています。
長町というのは現在の日本橋のあたりで、
江戸時代には旅籠が軒を連ねた街道沿いの宿場町です。
長町裏はその裏通りで、日雇い労働者や定職のない人々が住みつく貧しい地域でした。
芝居に描かれる下町の風情というのは、それだけでなにか事件の起きそうなおもしろみがありますね。
江戸の下町だけでなく、上方の下町についても興味が湧いてきました。
参考:大阪日本橋/新版歌舞伎事典