歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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国立劇場 増補双級巴-石川五右衛門-を見てきました!

先日、国立劇場にて12月歌舞伎公演

通し狂言 増補双級巴―石川五右衛門―を拝見してまいりました。

記念に感想や考えたことなどをメモしておきたいと思います。

 

今回のお芝居では今でもその名が知れ渡っている天下の大盗賊

石川五右衛門を吉右衛門さんがお勤めに。

盗賊としての痛快な生き様と、家族をもつ一人の男としての人間ドラマが描かれました。

 

ひとつの目玉であったのは宙乗りの「葛籠抜け」とよばれる仕掛けです。

宙に浮かぶ葛籠がパカッと開き、そこから吉右衛門さんが飛び出すというもの。

吉右衛門さんの宙乗りというのはなかなか見ることができませんから、

葛籠がパカッと開いたときには猛烈に興奮いたしました。

 

宙乗りで触れそうなほど間近に迫りくる吉右衛門さんの大きさたるや、

それはそれはすさまじい迫力でありました…!

もちろんこれまでにもたいへん大きなだと思っていましたけれども、

物理的な大きさだけでなくて強烈な圧のようなものが

劇場の空気を押してじわりじわりと迫ってくるのでもうドキドキワクワク、

大口を開けてじっとその軌道を眺めてしまいました。

なかなか見られませんので、

迷っておいでの方にはぜひとも体感していただきたいなあと思います。

 

芝居は途中まで痛快な五右衛門の活躍が描かれるのですが、

大詰は涙なしに見られない切ないものでありました…

 

五右衛門が実の息子と雀右衛門さんがお勤めになる後妻さんと暮らしているのですが、

後妻さんはこの血の繋がらない子に大変つらくあたり

キセルを手の甲にぎゅっと押し付けたりとなんだか妙なリアリティがありました…

 

普段とてもやさしげな雀右衛門さんが眉間にシワを寄せてこれでもかと子供をいじめるようす、

お父さんの吉右衛門さんにもなす術がないようすは辛かったです。

(余談ですが雀右衛門さんご本人が筋書で「私は優しく見えがち」とお話されていてほっこりしました)

 

もちろんこの児童虐待にはわけがあってのことで、

むやみにいじめているのではなく、もうたまらぬ悲しさがありました。

歌舞伎には親が主君のために子供を殺してしまうようなお話はたくさんあるのに、

それとはまた違った生々しいつらさでした…

 

犯罪を繰り返しながら捕まらずにいるお父さんが息子を連れて再婚、

新しいお母さんがその子を虐待してしまい…というのはもう

現代の現実世界においてもたくさんあるようなお話です。

しかもお父さんは捕まってしまい、死刑となろうとしている…

芝居の中の子どもなのですがこの子はこのあとどうなってしまうのかと思うと

胸がえぐられるような思いがしました。

楼門でカッコよく「絶景かな」と言うだけでない五右衛門のバックグラウンドを味わい、

現代の感覚にもぐいぐいと迫るとても豊かな芝居体験ができました。

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