歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい傾城反魂香 その四 土佐派と狩野派

ただいま歌舞伎座で上演されている

三月大歌舞伎

昼の部「傾城反魂香」は比較的上演頻度も高く、

以前もお話したものがあったため一度まとめました。

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しかしながらまだまだお話がいろいろとできそうですので、

いくつか続けていきたいと思います。

芝居見物の楽しみのお役に立てれば幸いです。

「狩野派」の絵で虎が飛び出すのは…

傾城反魂香(けいせいはんごんこう)

1708年に大坂は竹本座にて人形浄瑠璃として初演、

11年ののちに歌舞伎で上演された近松門左衛門作の演目です。

 

頻繁に上演されている「土佐将監閑居の場」のごく簡単なあらすじは 

一、吃音の絵師・浮世又平は「土佐」の苗字を名乗らせてもらいたく、妻のおとくと共に師匠の家を訪ねた。

二、師匠に厳しく反対され、絶望した又平はもう死んでしまおうと決意。

三、最後の作品として手水鉢に自画像を描く…

四、すると、この自画像が手水鉢を突き抜けるという科学では説明のつかない奇跡をおとくが発見!

五、この奇跡を受けて師匠は苗字を許してくれたとさ、めでたしめでたし…

といったものです。

 

吃音というハンディキャップのために、お土産の絵を描いて生計を立て、

御用絵師として土佐の苗字は授けてもらえずにいる又平とその妻おとくの苦しみが

痛いほど伝わってくるお芝居であります。

 

今月はこの場面の前に、天才的絵師・狩野元信が、自らの血で虎を描くと

それがガオーと飛び出すという奇想天外な場面も併せて上演されています。

 

「土佐」だ「狩野」だといろいろな名前が出てきましたが、

これらは日本画の偉大なる二大流派であり、

それぞれに特色があるようですのでこちらもごく簡単に調べてみました。

 

土佐派」と「狩野派」はともに御用絵師を勤め、

そうそうたる大仕事を任されてきた絵師たちの流派です。

現代においても立派なお寺や博物館で、

このお名前を持った方々による素晴らしい作品を見ることができます。

 

土佐派は室町時代の宮廷の絵所預を勤めていた藤原行光が祖とされ、

画系そのものは非常に歴史が長く、はるか平安時代までさかのぼります。

こちらが実際の土佐派の絵です。絵巻物のような美しさがありますね!

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土佐光吉 「源氏物語図屏風 (胡蝶)」The MET(パブリックドメイン)

 

大和絵(やまとえ)」と呼ばれる日本古来の絵画の伝統を守った画風が特徴です。

空間は横にふわりと広がり、なんだかほわんとして、

いかにもお公家さん好みなイメージではないでしょうか。

 

 

対する狩野派は室町時代の中期に興った流派で、

日本絵画史上最大の流派として知られています。

 

狩野派では大和絵の技法に、中国から取り入れた

唐絵(からえ)」「漢画(かんが)」と呼ばれるテイストをプラスして、

いかにもお侍さん好みの画風を作り上げていきました。

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狩野山雪「老梅図襖」 TheMET(パブリックドメイン)

こちらが狩野派の絵ですが土佐派と見比べてみますと、

縦のキリリとしたラインを感じさせる大胆な構図で、

なにやらぐぐっと迫力が加わっているように感じられますね!

 

狩野元信が自らの血で虎の絵を描いたら、

実際に虎が出現した!というお芝居の中のエピソードも

こうして考えるとそうそうおかしなことでもないような…

近松門左衛門はすごいなあと改めて思わされます。

 

とはいえ何百年もの間にたくさんの絵師たちが活躍しては、

いろいろと変化しながら続いてきたものですので、

ここまでのお話はあくまでも「傾向」と考えていただければと思います!

 

 

参考文献:江戸の絵師「暮らしと稼ぎ」

江戸の絵師「暮らしと稼ぎ」

江戸の絵師「暮らしと稼ぎ」

 

今月の幕見席

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