歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。 歌舞伎歴10年の20代。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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歌舞伎のことば:スリリングな「仏倒れ」の演出

今月歌舞伎座で上演されていた四月大歌舞伎

夜の部「黒塚」は、近代における歌舞伎の革新を

象徴するような演目のひとつです。

平成という時代の終わりにちなみまして、

この演目でも見られる歌舞伎の演出用語についてお話したいと思います。

今後の芝居見物のお役に立てれば幸いです!

壮絶な最期の表現「仏倒れ」

歌舞伎のことばで「仏倒れ(ほとけだおれ)」というものがあります。

これはまるで仏像がバタンと前に倒れるように、

前へと体ごと一気に倒れる演出のことです。

 

 

特に有名なのは今月上演されていた実盛物語の前の場面である

義賢最期」という演目です。

その名の通り義賢の壮絶なる最期を描いたものですが、

仏倒れ」で絶命して、そのまま階段を滑り落ちていくことにより

これ以上ないほどドラマチックに見えます

 

手をついたり膝をついたりすることなく完全にバターンと倒れるものですが、

お顔を骨折されたりといったニュースにはならないのが不思議なところです。

見ている方はヒャーッと縮み上がるような思いがし、

思わず漏れてしまったような「キャー」という声が客席から上がることもあります。

 

黒塚」では絶命の演出というわけではありませんが、

人ではない鬼女が高僧たちの力によってその妖気を瞬間的に失うさまが、

花道における仏倒れで非常に効果的に表現されています。

 

今月は猿之助さんの黒塚を初めて一階から拝見したのですが、

花道での「仏倒れ」の場面では、非常に不思議な瞬間を目撃しました!

鬼女が、立った状態からそのまま前にバターンと倒れるのではなくて、

倒れる前にフワッと垂直に上昇したように見えたのです。

 

ほんのコンマ数秒の出来事なのですが、

肉体から離れた魂がスーッと上にのぼっていってしまうのを

スローモーションで見ているかのようでした…!

 

そこから肉体がバタン!と倒れ、次の瞬間にはまた息を吹き返す鬼女…

猿之助さんが人間ではないなにか恐ろしい生き物のように見えた瞬間でした。

 

現実には起こるはずもない、科学では説明のつかないことを、

テクノロジーもトリックも使わず肉体だけで見せるというのは、

なんてすごいことなのだろうかと驚き入ります。

 

歌舞伎よりも長い歴史を持つ能にも「仏倒れ」という演出があり、

こちらではなんと後ろにバターンと倒れるそうであります…!

 

前にしろ、後ろにしろ、想像しただけで恐ろしいものですが、

おそらく危険のない特別な倒れ方があるのでしょうね。

演じる方々の人生をかけた鍛錬のなせる業なのだと思うと感動もひとしお、

またの上演の際には、ぜひ注目なさってみてください!

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