ただいま歌舞伎座にて上演中の芸術祭十月大歌舞伎から、夜の部「熊谷陣屋(くまがいじんや)」のお話を少しだけしたいと思います!
文楽「一谷嫩軍記」の場面を歌舞伎化したものであるというお話はその一でしてありますのでご一読ください。
「熊谷陣屋」は「一谷嫩軍記」の三段目にあたる場面ですが、
二段目にも熊谷陣屋に繋がる大切な場面があり、「陣門・組討」として歌舞伎の舞台でも上演されています!
陣門
陣門・組討の内容をざっくりとお話してゆきますね。
まず陣門の場面は、名前のとおり陣門の前が舞台です。
主人公である熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)には、
小次郎直家(こじろうなおいえ)という一人息子がいました。
一ノ谷の戦いが初陣となる小次郎…
一番乗りをして初陣の功名を立てよう!と
仲間にけしかけられ平家方の陣屋の陣門にひとり斬りこんでいってしまいます。
そんな一人息子・小次郎の安否を心配した熊谷次郎直実は、
後を追って場内に突入してゆき、ケガをした小次郎を救い出しました。
そんな熊谷を追って出てきた謎のさむらいがいるのですが、ここではこの正体は明かされません。
重要人物ですので、誰かいたらしいということをご承知ください。
組討
いよいよやってきた一谷の合戦!
須磨浦の海の風景が舞台一面に広がります。
ここは平家物語の「敦盛最期」に当たる部分で名場面として知られています。
戦場である海辺に敦盛の恋人・玉織姫が
敦盛さまに一目会いたい…
とふらふらとやってきたところ、玉織姫を横恋慕していた平山武者所というさむらいが
「敦盛は殺したぞ」と嘘をついてわがものにしようとしてきました。
なかなか首を縦に振らない玉織姫にいら立った平山は、なんと玉織姫を刺殺してしまうのでした。
場面は変わって大海原…
合戦にやぶれた平家方は海の上の船の方へ逃げてゆきました。
先ほど玉織姫が懸命に探していた敦盛も、馬にまたがって船へとむかってゆきます。
そこへようやく登場する熊谷次郎直実!
敦盛を呼び止めて戦いを挑みます。
沖合で組み合ってとうとう海辺で組み敷いた!いざ敦盛の首取らん!
というところで
熊谷はなんだか、この立派な若武者の首を取ることをためらってしまうのです…
自分も息子を持つ身。
父の思いはいかばかりか…とつらくなってしまったのですね。
しかし
「はや首討て」と潔く申し出る敦盛の姿を見て、熊谷はひと思いにその首を取ります。
まだ息のあった玉織姫が敦盛の首を一目見せてほしいと願ったので対面させましたが、
もう目が見えなくなっていた玉織姫は、そのまま息絶えてしまいました。
熊谷は敦盛の遺体を馬に乗せ、涙ながらに引いてゆくのでした。。。
ここまでが組討の場面で、熊谷陣屋につながってゆくとても重要な展開です。
遠見という演出
組討では「遠見」と呼ばれる、遠近法を用いた斬新な演出がなされています!
先日、文楽の舞台裏に入れていただいた際のお話で少し触れましたのでどうぞお読みください。
前提がとても長くなってしまいましたが、
ここからはいよいよ「熊谷陣屋」のお話に入ってゆきますね。