歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい傾城反魂香 その二 あらすじ

ただいま浅草公会堂で上演中の新春浅草歌舞伎より、第1部「傾城反魂香」のお話をしております。

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今回の浅草で初めて歌舞伎をご覧になっていろいろと疑問など生じた方もおいでかと思いますので、なんらかのお役に立てればうれしく思います。

その二と題しましてざっくりとしたお話の流れをご紹介します。

ざっくりとしたあらすじ

舞台は京都の山科。

竹やぶに覆われた、立派な家が建っています。

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これは土佐将監光信という、宮廷に仕えていた立派な絵師のおうちです。

そのお庭になにやら人々がやんややんやと集まっています。

 

将監の門弟・修理之助が「どうしたのですか?」と聞くと、

「近ごろこのあたりに虎が出て危ないので、ここに追い込んだんですよ」と言うのです。

いやそれはおかしいなぁ、日本に虎がいるわけがないよ…と疑う修理之助でしたが、

師匠の将監がやってきて「いや、いるかもわからない…」というではありませんか。

そうだそうだ!と人々が藪をガサゴソすると、本当に大きな虎がガオー!と現れました。

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将監はあろうことか「その虎は狩野元信の絵から抜け出したものですよ」と人々に告げます。ファンタジックな展開です。

「私の筆で虎の絵を描き消して見せましょう」と言い出しますが、修理之助は自ら「僕にやらせてください!」と志願しました。

 

修理之助は将監から筆を受け取ると、宙に向かってサラサラサラァ~!と虎の絵を描き、恐ろしい虎を見事に消してみせます。

修理之助はかわいらしいなりをして、すごい子のようです。

将監修理之助の絵の腕を讃えて土佐光澄という名前を与えました。

 

修理之助はすごいなぁ、見事だなぁ、やんややんやと人々が引き返してゆくところと

入れ違いに、とある夫婦がやってきました。

浮世又平という男と、その妻のおとくです。

この又平もまた将監の弟子であり、大津の町でおみやげとして人気のあった大津絵を描いて暮らしています。

 

立派な師匠に絵を学んできた又平が何故一人前の絵師となれず、旅の人に売るおみやげものの絵を描いているのかというと、

思っていることをうまく話せない吃音症というものを生まれながらに抱えているためなのです。

絵師というのはただ絵を描いているばかりではなく、ときには高貴な方々とお話をしなければなりません。

そういった仕事は、又平にはとても勤まらないよ」と厳しい態度を取り続けている将監なのでした。

 

それでも又平夫婦はそんな師匠・将監を大切に思い足繁く通っています。

吃音に苦しむ又平とは対照的に妻のおとくはとってもおしゃべりな女性で、又平のもどかしい口に代わり二人三脚で生きてきました。

 

さきほど修理之助が、土佐光澄という名を許されたばかり。

修理之助の兄弟子である又平にも、どうか土佐の苗字をくださいというお願いを、おとく又平に代わって伝えます。

しかし将監は首を縦にはふりません。。

 

と、そこへ

大けがをした狩野元信の弟子・狩野雅楽之助(うたのすけ)がドタドタとやってきました。

なんと元信の許嫁・銀杏の前が悪者に連れ去られたというのです!

 

これは一大事です・・・

ここはどうにか自分が役に立ちたいと又平は、

自分を行かせてください、どうにか姫君を取り返しますと願い出ますが将監はそれを受け入れません。

武道ではなくて絵の道で功を立てなさいと叱り、ここは修理之助に命じて行かせることとします。

 

どうかどうか代わってくれ修理之助に泣きつく又平でしたが、修理之助も師匠の命ですから逆らうわけいかないのです。

心を鬼にし、走り去ってゆきました。

 

将監にもぴしゃりと突き放され、又平夫婦はふたりきり・・・

 

自分は人並みの功も立てられず、土佐の苗字も許してもらえそうにない…と絶望した又平

もう、死にたい。死ぬしかない…と思い詰めます。

 

妻のおとくは、せめて最後にあの庭先の手水鉢に自画像を描いてからにしたらどうでしょうか、亡くなったあとで名前を贈られることもあるかもしれません…と夫に勧めます。

そうだねと又平は、最後と覚悟を極めて筆を手に取り、手水鉢に自画像を描き始めました。

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するとどうでしょう!

又平の描いた自画像は手水鉢の分厚い石を通り抜けて、裏側へ突き抜けたではありませんか。

夫婦はびっくり仰天!!

将監も現れ、この不思議な現象に「すごいぞ又平、土佐光起という名前をあげよう」と告げました。

 

ようやく夫婦の念願がかないました。

さっそく修理之助に加勢するよう命じられた又平は、いそいそと裃に着替えます。

大切な筆も授かり立派な侍姿となりうれしそうな又平は、おとくの鼓に合わせて舞い踊り、勇んで出発してゆくのでした…

 

と、このようなお話です。

 

現代のドラマだったらばいろいろと問題視されてしまいそうなセリフが随所にありますが、それこそ又平がここまでの人生で味わってきた痛みのリアリティであり、ひとつひとつ胸に突き刺さるようです。

近松門左衛門の着眼点はすごいなぁと感じ入ります。

上演頻度は低くありませんので、今回見逃してしまった方は次の機会をお待ちくださいね。

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