ただいま歌舞伎座で上演中の四月大歌舞伎!
昼の部「伊勢音頭恋寝刃」より、少しばかりお話いたします。
初めてご覧になった方のお役に立てればうれしく思います。
作品概要
伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)
は、寛政八年(1796)七月に大坂で初演されたお芝居です。
そして初演から40年もの月日が経った天保九年(1838)に、人形浄瑠璃として脚色し上演されています。
「人形浄瑠璃が大評判となり、すぐに歌舞伎化された」という演目はたくさんありますが、こちらは逆パターンでありました。
歌舞伎はワイドショー
実はこの伊勢音頭恋寝刃
たいへん恐ろしいことに…
実際に起きた殺人事件が基になっているのです…
事件は、初演からさかのぼることわずかふた月あまり…
お伊勢さん参りで有名な伊勢の古市という場所で起こりました。
当時の人々にとってお伊勢さんといえば、一生のうち一度は行きたい大人気の観光地です。
そんなみんなの憧れ・伊勢古市にある油屋という遊郭で、
孫福斎というお医者さんが仲居さん2人を斬殺…
さらに複数の人に斬りつけ大怪我をさせた
古市十人斬りと呼ばれる事件が起こったのです
あまりのショッキングな出来事に、事件の話題は瞬く間に全国へと拡散!
各地の芝居小屋ではこの事件を題材とした芝居が次々に作られ、詳しく知りたい人々が我先にと駆けつけたのでした。
現代に残っている「伊勢音頭恋寝刃」は、そんな風にして大慌てで作られた芝居の一つ。
事件からわずか3日後に作られた、とも言われています
江戸時代にはテレビも、もちろんYahoo!ニュースもTwitterもありません。
そんな時代においてニュースやワイドショー的な役割を持っていたのが、歌舞伎だったのです。
歌舞伎がメディア的側面を持っていたとは、便利な今の時代からは想像しにくいことですが、センセーショナルな事件などはすぐにお芝居にされ大変人気を呼んでいたのだそうです。
現代でも国内外を問わず実際の事件の映画・ドラマ化作品はたくさんありますよね!
いつの時代も難解な事件や痴情のもつれなどの話題は世間の興味を引きつけます。人の性というものですね。
江戸時代の作者や役者、劇場関係の人々はネット環境など無い中で
あーしてこーしてこれでいこう!と、たった数日間で芝居をかけてしまったのですね…
西洋の演劇が根付いてしまっている私たちの感覚と、当時の芝居見物の文化は全く異なるものではありますが、
ものづくりをする人間としては本当に頭の下がる思いです。
それでは今日はこのあたりで失礼いたします。