これまで今月上演中の高麗屋三代襲名披露
壽初春大歌舞伎においてとりわけ話題の襲名披露狂言
「勧進帳」についていろいろとお話してまいりました!
見どころしかないような演目ゆえ、ついつい長くなってしまいました。
せっかくの襲名披露ですので、
勧進帳の弁慶についてお話したその七でも少し触れている
七代目松本幸四郎について少しばかりお話したいと思います。
ほんのさわり程度でありますが、なんらかのお役に立てれば幸いです(人'v`*)
1600回を超える勧進帳
七代目幸四郎といえば明治・大正・昭和と激動の近代を生きた名優で、
勧進帳の弁慶を生涯にわたりなんと1600回以上も勤めたという
偉大な記録の持ち主であります。
新染五郎さんも密着番組にて「超える記録を」と
意気込んでらっしゃいましたね。
どの役でもそうですけれども弁慶というのは特に、
どなたでもできるような役ではないために
すごいね!ぴったりだね!という方を称賛して「弁慶役者」などと呼びます。
そのぴったり感というのはお芝居が上手かどうか、お顔が良いかどうか、
姿が良いかどうか…などという尺度ではなかなかはかれぬものです。
今月初めてご覧になった方はぜひ年月を経て他の配役などもご覧になり、
こういうことか!と実感なさってみてください。
七代目幸四郎はまさしく弁慶にぴったりの魅力ある役者であったのでしょうね。
こちらがその拵えであります!かっこいいですね!
「勧進帳考」伊坂梅雪 著 より 七代目幸四郎の弁慶
江戸末期に七代目團十郎によって初演された勧進帳は、
七代目の子供である九代目團十郎に受け継がれました。
九代目は「劇聖」と呼ばれる名優で、明治時代の歌舞伎界を牽引した人物です。
そしてそんな九代目の弟子である七代目幸四郎が
「劇聖」九代目團十郎譲りの芸で勧進帳を受け継いで
空前の大ヒットを記録するという偉業を成し遂げたというわけです。
七代目幸四郎は舞台の上の偉業だけでなく、三人のご子息を残しています。
一人目は十一代目團十郎。現在の海老蔵さんのおじいさまであります。
二人目は初代松本白鸚。現在の白鸚さん・吉右衛門さんのお父様です。
そして三人目が二代目尾上松緑。現在の松緑さんのおじいさまです。
子・孫の代までたくさんの「弁慶役者」がおいでです。
もし七代目がいらっしゃらなければ…と考えるとおそろしいほどに
素晴らしい血を残してくださったんだなぁ!と感動してしまいますね。
「勧進帳考」伊坂梅雪 著の写真に戻って見てみますと
こちらが師匠の九代目團十郎の弁慶…
写真を見る限りですが、繊細さも感じられる理知的な雰囲気の弁慶です。
そしてこちらが七代目幸四郎の弁慶…
堂々たる雰囲気やまなざしの強さに圧倒されそうです。
吉右衛門さんのおもかげを感じますね!
同じ弁慶でも、その魅力はさまざま…
その時代時代の「弁慶役者」が活躍し人気を呼んでいたおかげで、
勧進帳は今も大人気狂言として受け継がれているのですね!
感謝の思いが湧いてきます。
参考:歌舞伎 家・人・芸