ただいま歌舞伎座で上演中の
團菊祭五月大歌舞伎
十二世市川團十郎五年祭
十二代團十郎さんがこの世を去られてから五年の追善として
ご子息の海老蔵さんが当たり役をお勤めになり
團十郎さんらしく明るく華やかな興行となっています!
明治時代の名優・九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎の
功績をたたえる興行である團菊祭。
江戸の風情を描き出す生世話物を得意とした五代目尾上菊五郎の出世芸となった、
夜の部「弁天娘女男白浪」について少しばかりお話したいと思います。
芝居見物のたのしみのお役に立てればうれしいです。
こんな形で…まさかの再会
歌舞伎屈指の名作のひとつ
弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
名場面「雪の下浜松屋の場」の後には、
今月上演されていない「雪の下浜松屋蔵前の場」という部分があります。
なかなか見るチャンスのない場面ですが、
おもしろい部分なのでお話してみたいと思います。
浜松屋の店先にやってきた女装の盗賊たちを追い払ってみせた
立派なおさむらいの玉島逸当。
奥座敷にて、浜松屋主人の幸兵衛とその息子宗之助から
手厚いおもてなしを受けていました。
これはほんのお礼の品です…と幸兵衛が品物を渡そうとするところ
玉島逸当は態度を急変!
刀を抜いて、あり金ぜんぶ出せこのやろうと凄み始めたのです…!
どういうこっちゃと慌てるところへ、
さきほど追い返したどろぼう弁天小僧菊之助と南郷力丸が
刃物をギラギラさせながら合流してきたではありませんか。
なんと玉島逸当と見えたのは、どろぼうたちのリーダー日本駄右衛門。
そもそも狙いは先ほどのゆすりのレベルではなくて
浜松屋の蔵にあると思われる千両箱。
全員がグルだったわけです。なんともおそろしい手口です…!
日本駄右衛門が金を出さないと命はねぇぞと脅すところ、
幸兵衛の息子の宗之助が「僕を代わりに殺してください」と
けなげにもお父さんをかばおうとします。
しかし…なんとここで
「お前は本当の息子じゃないんだよ…」と衝撃の告白をする幸兵衛。
赤ちゃんのときに初瀬寺で取り違えた子供なんだと打ち明けました。
また、ここで衝撃の展開に。
17年前の貧乏時代に初瀬寺に我が子を捨てた日本駄右衛門が
「まさか…俺のせがれか…!」と言い始めたのです。
証拠と照らし合わせてこれが見事に合致。
思わぬ再会を驚きつつ
「私の本当の息子は鴛鴦布の巾着を持っているはずなんです」
と語る幸兵衛に
「その巾着なら俺が持っている…!」と名乗り出たのは
まさかの弁天小僧菊之助!
白浪五人男とゆすりに入られた浜松屋のあいだで
実の親子が二組いき違っていたという驚きのストーリーなのでした!
浜松屋の場の弁天小僧を
「この家の実の息子なんだなぁ」と思いながら見てみると
またひとつおもしろさが深まるように思います(´▽`)
参考:新版歌舞伎事典/歌舞伎登場人物事典
今月の幕見席