ただいま歌舞伎座で上演中の
秀山祭九月大歌舞伎!
昼の部「河内山」は歌舞伎の定番といえる演目のひとつですので、
この機会に少しばかりお話いたします。
芝居見物の楽しみのお役に立てればうれしく思います!
河内山わるもの列伝
河内山(こうちやま)というのは実は通称で、
正式なタイトルを天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)といいます。
スカッとして気持ちの良い七五調のセリフで知られる
江戸の名作者・河竹黙阿弥の作品であります。
本当にざっくりとしたあらすじは、
1、お数寄屋坊主の河内山宗俊が、
2、松江出雲守の妾にされそうになっている質屋の娘さんを取り返すために、
3、立派な使僧に化けて見事連れ戻した
4、実はお数寄屋坊主であるということがばれてしまったが、
5、見事に居直って「ばかめ!」とやりこめましたとさ
というものです。
とんでもないけれども憎めないお数寄屋坊主の河内山宗俊。
実はこの役柄は文政6年(1823)に牢死している実在の人物をモデルにしています。
名を河内山宗春というお数寄屋坊主で、
幕府の実力者であった中野碩翁を味方につけ好き放題に振る舞っていたようなのですが、
あるとき穏やかでない事件を引き起こします。
江戸時代、今の宝くじのような「富くじ」を発行し
その収益で財政を立て直そうとする藩が多かったのですが、
ずるをしてしまう藩も少なからずあったようです。
水戸藩においてもそのようなことがあり、
なんと「富くじ(当たりなし)」を幕府に許可を得ず発行していたのでありました。
自治体が景品表示法違反というのは結構なアウト具合ですよね!
河内山宗春なんと、この水戸藩の弱みに付け込み、
「ここの富くじは外ればっかり!当たりが入ってねぇじゃねぇか!
おかげでカネが無くなっちまった、さっさと払いやがれ!」とすごんだのです!
相手が水戸藩でも怖いもの知らずの河内山、
無許可なのは知ってんだぞ!俺はお数寄屋坊主だぞ!お上にバラしちゃうぞ!と脅して
じつに五百両もの大金を水戸藩からゆすり取ることに成功したのです。
万々歳の河内山はこの大金でたいそう羽振りよく遊び暮らし、
「どうしてあいつはあんなに急にお金持ちになったんだろう?
なにか秘密でも握ってるんじゃないか?」と噂が立つようになります。
そんな騒ぎのなかで富くじの事実が知れては一大事です…!
河内山のようなやつは何かしら悪いことをしているのだから、
とりあえず奉行所に捕まえてもらおうと、
水戸藩はひとまず河内山を逮捕することにしました。
いわゆる別件逮捕という状況であります。
河内山は実際、チンピラのようにゆすりたかりなどを繰り返していたものですから、
奉行所も簡単に逮捕することができました。
しかし取り調べもはじまらないうちに…
突然、河内山はこの世を去ったのです!
獄中での出来事でありました。
この河内山のあっけない死は、
権力者による毒殺なのではないか…?とみられています。
権力者に毒殺され口を封じられてこの世を去ったと聞くと
なんだかかわいそうにも思えてしまいますが、
水戸藩をゆすり大金をせしめる河内山宗春はなかなかのものです!
芝居で描きたくなるような魅力に溢れていますね!
参考文献:朝日歴史人物事典/実録江戸の悪党