ただいま歌舞伎座で上演中の
芸術祭十月大歌舞伎!
夜の部「助六曲輪初花桜」は仁左衛門さんが江戸一の色男・助六さんをお勤めになっていますね。
勘三郎さんの追善興行ということで勘九郎さん・七之助さんの御兄弟と玉三郎さんまでご登場という、
大変ぜいたくで貴重な機会として話題を呼んでおります。
この機会に少しばかりお話いたしますので、なんらかのお役に立てればうれしく思います。
さむらいと見えたのは…
江戸一番のイケメンとして吉原中でも大評判の助六さんは実は、
父の敵を討たんとしている曽我五郎時致(そがのごろうときむね)であり、
源氏の宝刀・友切丸を探し出したいがために、いろいろな人に喧嘩をふっかけては
刀を抜かせようとしている…という事情があります。
そんな荒くれ者の五郎なのですが、対照的に大変ソフトなタイプのお兄さん
曽我十郎佑成(そがじゅうろうすけなり)がいて、
助六のお芝居では白酒売新兵衛(しろざけうりしんべえ)として登場します。
弟よあまり喧嘩しては良くないよとたしなめていたはずなのに、
五郎の真意を知るや否や感心して、自分も一緒に喧嘩をしよう!などと言い出して、
ふたりして調子に乗るというおもしろい場面でした。
そんなふたりを急激に正気へ引き戻してしまうのが、
五郎を心配して男装をしてまで恋人の揚巻に会いに来ていたお母さんの満江さんです。
あんなに意気消沈するのですから、さぞかし威力のあるゴッドマザーなのだろうと思われます。
曽我兄弟のお母さんは元ネタの「曽我物語」でも重要な役割を果たしているそうで、
また能や幸若舞の曽我物でもめちゃくちゃな弟の五郎を厳しく叱りつつ
息子の本心を知って勘当を許してあげるような構図がみられ、
この助六などのように後から生まれた芝居に大きな影響を及ぼしたのでした。
曽我兄弟だけでなくお母さんも登場し、ドラマが広がることで、
さむらいの身分でない人々にとっても共感できるものになっていったようです。
余談ですが私は、満江さんの顔を見た十郎が丸まって「死んだ」と言うのが
なんとも子供じみていておもしろくついつい笑ってしまいます(´▽`)
いつごろからある演出なのかわからないので、調べてみたいものです。
参考文献:歌舞伎登場人物事典