歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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歌舞伎のことば:モテる男の名ぜりふ「煙管の雨が降るようだ」

今月歌舞伎座にて上演されていた芸術祭十月大歌舞伎

仁左衛門さんの助六に七之助さんの揚巻、勘九郎さんの白酒売りでおおいに話題を呼んだ

夜の部「助六」にちなみまして、歌舞伎の名ゼリフに関してひとつ掘り下げてみたいと思います。

芝居見物の楽しみのお役に立てれば幸いです。

「キセルの雨が降るようだ」

助六さんといえば江戸一番のいい男!

姿かたちだけでなく心意気も気持ちがよくて、おまけにオシャレな色男です。

 

当然ながらモテにモテまくっているわけですが、

いかにモテているかがよくわかる効果的な名ぜりふが

たいへん有名な「キセルの雨が降るようだ」であります。

 

これは吉原の遊女たちが助六さんに、

恋のアイテム「吸いつけ煙草」を次から次へと渡してくるので、

「こりゃまるで雨が降るようだよ、モテてモテて困っちゃうね」と意味合いなのですが、

そもそもの「吸いつけ煙草」とはどんなものであったのかを

ひとの時を想うJTのサイトにて調べてみました。

 

 

吉原をはじめとする遊里では、張見世と呼ばれる遊郭の店先の格子の中で、

遊女たちがずらりと並んでお客さんを待っていました。

 

 

そこへやってきて品定めをするお客さんの気を引くためにと、

キセルに煙草を詰めてスッと一口吸いつけて火をつけてから、

懐紙で拭ってスッと差し出したのが「吸いつけ煙草」であります。

 

恋を売る遊女たちには美学があり、

お客が欲しいために誰かれ構わず渡しまくるというわけではなかったようです。

好感が持てる殿方だからこそ、吸いつけ煙草を渡すのです。

意休さんではなくて助六さんに渡すのはそのためであります。

 

差し出す、差し出さない、

はたまた受け取る、受け取らない、という恋の駆け引きがあったのですね。

なんとも色っぽいお話です。

 

中には、気心の知れた親しい方でなければ決して吸いつけ煙草は渡さぬという、

張りのある遊女もいたようです。

 

吸いつけ煙草を渡すときには襦袢の袖で吸い口を吹くのですが、

丁寧に拭くのは大切な上客や、あまり親しい間柄ではない方に渡すとき、

ちょっと軽く拭くだけならばすでに深い仲という違いもあったようです。

 

いわゆる間接キスというわけですから、現代の感覚でもなんとなくそのドキドキ感がわかりますね。

しかしながら、これはあくまでも遊里でのあそびの一環であって、

普通に町に暮らしている恋する娘さんが、

想い人に吸いつけ煙草を渡すという現実味のあるお話は見つかりませんでした。

助六の舞台を見てもわかるように、

遊里というところは極彩色の夢のような場所であったのでしょうね。

 

参考:日本たばこ産業、喫煙文化研究会

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