ただいま歌舞伎座で上演されている二月大歌舞伎
昼の部「義経千本桜 すし屋」は初代尾上辰之助三十三回忌追善として、
ご子息である松緑さんが主人公のいがみの権太を初役でお勤めであります。
前回のまとめに引き続き、また少しばかりお話していきたいと思います。
芝居見物の何らかのお役に立てればうれしく思います。
左の眉上にご注目
義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)は、
1747年(延享4年)11月に大坂は竹本座にて初演された人形浄瑠璃の演目。
評判をうけてその2か月後の1748年(延享5年)に歌舞伎でも初演され、
以来、実に270年にわたり愛されている名作中の名作です!
仮名手本忠臣蔵・菅原伝授手習鑑と並び三大狂言のひとつに数えられています。
<前提>
源義経は源平合戦で大きな功績を上げたがお兄さんの頼朝に疎まれ都を追い出されてしまった。
滅ぼされたはず平家のさむらいたちは復讐の機会を狙っている。
<ざっくりとした流れ>
・鳥居前:くまどりの男が駆け抜けるド派手な場面
↓
・渡海屋・大物浦:平家のさむらいの無念を描く格調高い時代物の悲劇
↓
・吉野山:桜の中での美しい道行
↓
・すし屋:お寿司屋さんのどら息子が起こす世話物的な味わいのある悲劇
↓
・四の切(しのきり):親を思う子狐のファンタジー
今月上演されている「すし屋」の段は、
どうしようもないドラ息子であったいがみの権太が平維盛を救うため
心を入れ替え自分の妻子を犠牲にするが…というお話であります。
国会図書館デジタルコレクション
先ほどお話した通り大坂の地で生まれたこの演目。
関西ではやんちゃないたずらっ子のことを
「ごんた」「ごんたくれ」などと呼ぶそうですが、
それはこのいがみの権太がルーツであるとされています。
そんなことからもうかがえるように、
いがみの権太はただの悪人ではなくてなんだかかわいげがあり、
心根には優しさや少年のような素直さを持っているようであります。
そんないがみの権太の演出には上方をルーツとするものと、
江戸の五代目松本幸四郎、三代目・五代目尾上菊五郎…と伝わってきた
音羽屋の型とがあり、キャラクターにはかなりの違いがあります。
上方の権太は原作の人形浄瑠璃に近い「田舎の博奕打ち」という風情ですが、
江戸の権太はスカッとしてカッコいい「江戸ッ子」というイメージです。
実は江戸ッ子の権太には、目で見てパッとわかる違いがあります。
それは左の眉尻の上に描かれたほくろ・
江戸ッ子風のいがみの権太の演出を創始したその人である
五代目幸四郎リスペクトという意味で描かれているのです。
五代目幸四郎は「鼻高幸四郎」と呼ばれるほど鼻が高く、
眉上のほくろもあいまって容姿に大きな特徴があった方のようですよ。
鼻高幸四郎リスペクトぼくろ付きの演目は他にもあります。
ひとまず今月の松緑さんの左眉の上にはほくろがあるかどうか、
ぜひチェックなさってみてくださいね。
このすえひろは江戸の人間ですが上方への憧れが非常に強いので、
上方らしいいがみの権太も大好きで見るたびおいおい泣いてしまいます。
どちらも魅力にあふれていますので、様々な配役でぜひご覧ください!
参考文献:歌舞伎登場人物事典/新版歌舞伎事典