ただいま歌舞伎座で上演中の
四月大歌舞伎!
夜の部「黒塚」は猿之助さんが約2年ぶりにお勤めになるもので、
なおかつ腕に負われた大怪我からご復帰されて初めてということで
大変注目を集めています。
この機会を記念して少しばかりお話したいと思います。
猿翁十種のひとつ
黒塚(くろづか)は1939年(昭和14年)11月に、
東京劇場にて初演された舞踊劇であります。
ざっっっくりとした内容としては、
①奥州安達原の野原にひとり暮らす老女の元へ旅の高僧が訪ねてくる。
②老女は人を恨み呪うようになった自分の哀れな身の上を、高僧に打ち明ける。
③高僧が来世での救いを語ると、老女は喜んで「奥の一間は決して見ないで」と言い残して薪を取りに出かける。
④強力がつい奥の一間を見てしまうとそこには遺体の山!老女は鬼女だったのである。
⑤僧の教えを受けて晴れやかな気持ちになった老女が、すすきの野原を歩いていると、強力がすごい形相で逃げてきた。
⑥高僧たちの裏切りを悟った老女は鬼と化し、食い殺そうと襲い掛かる…!
というものです。
初演は大正昭和期に活躍した二代目猿之助。
生涯にわたってお勤めになり、当たり役としました。
この方は当時の歌舞伎界の革新派として知られ、
戦後初めて中国で公演を、そしてロシアでも歌舞伎の公演を行った方であります。
当代の猿之助さんもワンピース歌舞伎や弥次喜多などなど
革新的な演目にたくさん挑まれていますが、
ここにそのルーツがあるわけなんですね。
二代目は黒塚を生涯にわたりお勤めになり当たり役とされたわけですが、
実はこの演目にはロシアの影響が表れているそうであります。
それは老女が月の光の下で軽やかに踊る場面…
つま先を巧みに使う動きから、心の晴れやかさが伝わってくるようです。
これは若いころに海外で「ロシアンバレエ」をご覧になったことから
発想されたといわれています。
この部分のほかにもう一つ
「コサックダンス」のニュアンスを取り入れた部分があるそうですので、
ぜひ実際の舞台をご覧になり、探してみてくださいね。
そんな二代目猿之助は、孫に猿之助の名前を三代目として譲り、
自身は初代猿翁を名乗るようになります。
この三代目猿之助は現在の二代目猿翁さんですよ。
三代目は23歳の襲名披露でお勤めになって以来、
この黒塚を繰り返し繰り返しお勤めになり、
初代猿翁の舞踊の名作を集めた「猿翁十種」にも取り入れて
猿之助の名前とこの演目のゆかりをより一層深くされました。
そしていよいよ2012年、
舞踊の名手として知られる当代の猿之助さんが
四代目の襲名披露にてこの黒塚をお勤めになり、
家の芸として見事に受け継がれたわけであります。
近代歌舞伎の新時代に生まれ、
革新の歴史が代々受け継がれてきた大切な演目なのですね。
そうしたストーリー性も人気の秘密かもしれません!
参考文献:20世紀日本人名事典/歌舞伎 家人芸
今月の幕見席
公演もあと少しとなりましたので黒塚の幕見席はかなり混み合うことが予想されます。
上演ギリギリではなく、早めにお出かけになることをおすすめいたします。
演目の中には上から見ると大変美しい場面がありますので、
下のお席でご覧になった方にもぜひ一度上からの眺めをお勧めしたく思います。