歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい 外郎売 その四 お菓子じゃない方のういろう

ただいま歌舞伎座で上演中の

七月大歌舞伎

昼の部「歌舞伎十八番の内 外郎売」では、

海老蔵さんのご子息の勸玄さんが見事な言立てを披露され

メディアなどでも大きな話題になっていますね!

これ以上ないほどの機会ですので、

このすえひろも外郎売について少しばかりお話してみます。

芝居見物のお役に立てればうれしく思います!

小田原名物「透頂香」

歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり)は、

1718年(享保3年)のお正月に江戸は森田座で上演された

若緑勢曾我(わかみどりいきおいそが)」をルーツとする演目。

 

小田原名物外郎の薬箱を背負い、宣伝口上であるところの「言い立て」を

スラスラと澱みなく聞かせる…というところがみどころであります。

 

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シカゴ美術館  勝川春章 二代目市川海老蔵 「外郎」

 

その三までで外郎売という演目の成り立ちについてお話して参りましたが、

そもそも外郎とはなんなのであろうかということもこの機会に併せてお話してみます。

 

外郎(ういろう)」と聞いて思い浮かぶ品物は、地域によって差があるようですが、

まずひとつは名古屋のお土産などでおなじみのつるつるとした

ようかんのような、すあまのようなお菓子ではないでしょうか?

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これは間違いなく「ういろう」でありますが、

芝居で外郎売が売っているのはこういった形状のものではなさそうですね。

小さな丸い粒のようなものを売っているのだなということが仕草からもわかります。

実は芝居で外郎売が売っているのは同じく「ういろう」と名の付く

歴史ある妙薬なのであります。

 

お薬の方のういろうは正式には「透頂香(とうちんこう)」といって、

中国から博多へ渡った外郎家の人々によって持ち込まれ、

京都を中心に公家や武家の人々に献上するお薬として製造されてきたもの。

そのうち外郎家が相模の国小田原に移って、一子相伝の技術で製造を続け

旅行がレジャーとして広まった江戸時代には小田原名物として

庶民の間でも広く知られるようになりました。

 

透頂香は口の中をさっぱりとさわやかにして痰を切り、

咳やのどの痛み、お腹の痛みを治し、おまけに頭痛や疲れにも効いてしまうという

まさに魔法のような万能薬だったそうです。

 

芝居ではよく「にわかの差し込み!」などといって

急激な体調不良に苦しんでいる様子が描かれますが、

現代のような医療に頼れない時代、こういった薬は人々にとって

非常に心強い物であったのだろうと思われます。

 

となると、きっとこの透頂香人気にあやかって、

どこかのお店が便乗して同じ名前のお菓子を作ったのだろうな…と想像しますが、

実は薬のういろうもお菓子のういろうも、

「外郎家」なる商家が一手に商ってきたとのこと。

一体どういったわけなのか?というところで、次回に続きます。

 

参考文献:新版歌舞伎十八番/新版歌舞伎事典/日本経済新聞/医歯薬進学

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