歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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歌舞伎のことば:武家に仕えるバリキャリの象徴「片外し」

今月歌舞伎座で上演されていた八月納涼歌舞伎

娯楽性の高い狂言立ての中では古典の名作中の名作である

第一部の「伽羅先代萩」が異彩を放っていました。

そんな「伽羅先代萩」から、歌舞伎の大切な用語についてひとつお話いたします。

次回の芝居見物のお役に立てればうれしく思います!

かつらの名から「かっこいい女性の生き様」へ

今月の「伽羅先代萩」では七之助さんが乳母政岡を初役でお勤めになりました。

御家騒動のさなかにあって、我が子を犠牲にしてまで若君を守らんとする

忠義の心を貫く強い武家の女性のお役であります。

 

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国立国会図書館デジタルコレクション/木曽六十九駅 蕨蕨手村・乳人政岡 豊国

 

政岡のように武家で働く女性や武士の女房の役柄を

片外し(かたはずし)」と呼びます。

政岡はそんな片外しの中でも最高峰とされる難しい役です。

さむらいにも負けない堂々とした風格や知性、気骨、貫禄などが必要とされます。

現代でいうと、男性社会でしなやかに活躍するバリキャリ女性のようなイメージでしょうか。

かっこいい女性の姿を象徴している呼び方なのであります。

 

そもそもこの「片外し」という呼び方は、

武家で働く女性や武士の女房がしていた髪型「片外し」を模したかつらの名前からとられたものです。

 

もともとの髪形「片外し」は、御殿勤めの女性たちが

長い下げ髪をくるくるっと巻き上げて笄を挿してまとめていたスタイル。

笄を抜けば正式な髪型である下げ髪になるという便利なものであります。

 

 

片外しの分かりやすい図はないかいなあと思いいろいろと調べていますと

なんと美容師の方が実際に片外しを結う動画を発見いたしました!

www.youtube.com

歌舞伎のかつらの片外し「の」の字のカチコチした物体のように見えてきて

襟足あたりに謎の反りかえった部分があるのですが

実際の髪ですと意外とやわらかに見えるのだなあと興味深く思いました。

 

御殿女中の全員がこの髪型に結ってよいわけではなく、

御年寄、御中臈など、それなりの地位にある限られた女性だけのものでした。

例えば「春興鏡獅子」では、お小姓の弥生さんは島田に結っていて

片外しのようなバリキャリ感はなく初々しい印象となっています。

初めて見る演目であっても、こうした記号の集まりによって

たくさんの情報を読み取ることができるのも歌舞伎のおもしろいところだなと思います。

 

政岡の子である千松をなぶり殺す仁木弾正の妹・八汐も似た髪型をしていますが

いじわるな八汐のことは「片外し」とは呼びません。

片外し」という呼び方の中に、どんな困難があろうとも強い心で毅然と立ち向かう

かっこいい武家の女性の生き様…というものが込められているわけであります。

 

江戸時代の町人たちが、武家の女性ってこんな感じかな、

きっとこんなつらいこともあるよね、それでも強く立ち向かうんだろうな…と

憧れて見ていたのだろうと思うとなにやら愛しく感じられます。

 

参考文献:新版歌舞伎事典/大辞林/国立国会図書館

新版 歌舞伎事典

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