ただいま歌舞伎座で上演中の
芸術祭十月大歌舞伎!
夜の部「三人吉三巴白浪」は、歌舞伎屈指の名作として知られる人気狂言です。
お馴染みの芝居として冒頭の一場面のみを上演することも多く、
なかなか全貌が明らかにならない演目ですが、今月は通し狂言で上演されています!
奇数日・偶数日の配役替えでも注目を集めていますので、
先日まとめを作成いたしましたがさらにいくつかお話してみます。
何らかのお役に立てればうれしく思います!
「庚申」に出会ったすてきな三人組
三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)は、
節分の夜に巡り合った三人の盗賊が兄弟の契りを交わし、
親と子の複雑に絡み合った縁に翻弄されていく物語であります。
初演された安政7年(1860年)は申年、
しかも60年に一度の庚申(かのえさる)の年であることから、
庚申が物語の中の重要なキーワードとしてさまざま登場しております。
庚申は十二支の組み合わせの一つで、
暦の上では60年に一度の庚申の年・または60日に一度の庚申の日のことをいいます。
江戸時代の人々の間ではこの庚申の日にまつわる「庚申待ち」という信仰が根付いていたようです。
庚申待ちとは、中国道教の三尸説という教えをベースとして
仏教・神道・修験道・民間信仰…などさまざまな信仰が結びついた結果生まれたもので
具体的には「庚申の夜は徹夜して一睡もしてはならない」という謎の決まりであります。
なぜ寝てはいけないのかといいますと、
そもそも人の体内には「三尸」なる虫がいて、
庚申の夜に人が眠った隙にひゅうっと天に昇って天帝にその人の罪を告げてしまう、
それを聞いた天帝はその人を早死にさせてしまう…!
=長生きするためには眠らないことだ
…という理屈なのだそうであります。
それならば日頃から罪を犯さぬよう慎めばよいのでは…?と思われますが、
大なり小なり罪を犯してしまうのが人間であるという考えもあります。
やがてそのような信仰が発展し、
庚申の日に身ごもった子は盗人になるという俗信に繋がっていきました。
かなり飛躍しているように思われますが、
「五右衛門が親 庚申の夜を忘れ」という川柳も残されているように
人々の間で深く根付いたものであったようです。
つまり三人の吉三郎はそんな俗信に基づいて、
盗人三人が庚申に出会った
↓
その日から義兄弟となる(いわば、生まれ直す)
という逆説的な設定が付けられているわけですね!
個人的には三人がなにやら胸が熱くなって(ワルのノリで)兄弟になったのかと思っていたため、
こういった信仰を知り、より一層の深みを感じました。
参考文献:歌舞伎登場人物事典/百科事典マイペディア/日本大百科全書(ニッポニカ)