ただいま歌舞伎座で上演中の
芸術祭十月大歌舞伎!
夜の部「三人吉三巴白浪」は、歌舞伎屈指の名作として知られる人気狂言です。
お馴染みの芝居として冒頭の一場面のみを上演することも多く、
なかなか全貌が明らかにならない演目ですが、今月は通し狂言で上演されています!
奇数日・偶数日の配役替えでも注目を集めていますので、
先日まとめを作成いたしましたがさらにいくつかお話してみます。
何らかのお役に立てればうれしく思います!
両国に今もの残る「百本杭」
三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)は、
節分の夜に巡り合った、吉三郎という名を持つ三人の盗賊が兄弟の契りを交わし、
親と子の複雑に絡み合った縁に翻弄されていく物語であります。
この演目は動乱のさなかにあり先の読めない江戸末期の市井の、
退廃的なムードのなかで生まれたものでありますので、
そのような気配がロケーションにも色濃く表れ、独特の色っぽさを醸し出しています。
特に有名な冒頭「大川端庚申塚の場」の舞台については諸説あるのですが
一説にはこのすえひろの懐かしいふるさとに今も立ててある
とある木の札周辺がそれであると言われていますので、
ひとつ紹介させていただければと思います!
それは現在のJR総武線両国駅の駅前に跡地の残っている
「百本杭」なる場所であります。
百本杭とは文字通り、隅田川(=大川)の岸にたくさん打ち込まれた杭のことであります。
隅田川は現在の両国駅近くにかかっている両国橋のあたりでぐっと湾曲しているため、
JR両国駅側の北岸では特に流れが急になり、大変危険であったということです。
そこで、ここにたくさんの杭を打ち込み水の抵抗をやわらげ、水害を防いでいたのであります。
確かに現在も両国駅界隈は、川から水が流れ込みかねないなだらかな坂になっており
百本杭がなければちょっとした増水で水浸しになってしまったかもしれないと想像されます。
両国橋を渡った先はかつて「川向う」などとも呼ばれ、
遊び場が数々立ち並ぶ下町の盛り場でありました。
そんなある種の境界でもある百本杭からは江戸中心部とは違った、
独特の魅力的なムードが漂っていたのだと思われます。
黙阿弥はそんな百本杭を芝居に登場させており、
お嬢吉三が夜鷹のおとせから百両を奪いとって
グッと足をかけて決まる川岸の杭も、まさにこの百本杭をイメージしていたのではないか…?
と言われているわけであります。なんだかワクワクしてくるお話です。
この百本杭は、「十六夜清心」にも登場いたしますので
またの機会にお話したいと思います!
地図
参考文献:歌舞伎登場人物事典/百科事典マイペディア/日本大百科全書(ニッポニカ)/『東京江戸案内 歴史散策 巻の2 歌舞伎と落語篇』/『墨田区史跡散歩 東京史跡ガイド 7』/『隅田川随想 江戸の昔をたずねて』