本日26日は、youtubeの松竹チャンネルで期間限定無料公開されていた三月大歌舞伎の舞台映像の配信期限であります。これほどのボリュームの映像を無料にて公開してくださったこと、感謝の思いでいっぱいです。
せっかくの御志ですから、少しでも明るい気持ちで過ごせるよう、このすえひろもいつもの千穐楽のようにお話をしたいと思います。
とにもかくにも、三月大歌舞伎の千穐楽、おめでとうございます!
※過去の写真です
幻の令和二年 三月大歌舞伎
数年後にお読みいただくことを想定しまして一応状況をご説明いたしますと、現在新型コロナウイルスによる感染症COVID-19が世界中で猛威を振るっており、現時点で全世界20万人もの方が命を落とすという、信じられないような恐ろしい事態に陥っております。
このウイルスには人々が密閉空間で密集しながら密接に交流することで感染が拡大するという特性があるそうで、わいわいと集まり芝居を楽しむことはもちろんのことこれまでのような社会生活そのものが難しく、まったく先の見えない状況に不安が広がっています。
歌舞伎では三月公演以降すべてが中止となっていますが、役者さんたちによる三月公演の収録が無観客にて行われ、一部の公演の舞台映像を全編にわたってyoutubeにて期間限定無料配信してくださったのであります。
歌舞伎座に関しても、昼夜の演目のすべての舞台映像が本日26日まで無料配信されました。
中止となった歌舞伎座の三月大歌舞伎は、仁左衛門さんと吉右衛門さんが共演なさる「新薄雪物語」や、白鸚さんと幸四郎さんが親子で共演なさる「沼津」など、ファンにとって何年も忘れられない宝物となるはずの演目がそろっていたため、映像を残してくださったこと自体が本当にありがたいことでありました。
そのうえyoutubeにて無料で公開してくださったというのは夢のようで、在宅生活を余儀なくされている日々のなかで味わった特殊な芝居体験は、一生忘れることはないと思います。
開演直前のズズ…という幕の音を聞いた時の高揚感や、軽やかな柝の音の心地よさ、芝居の日の朝の支度や駅のようす、木挽町広場の賑わい、昼夜の間の立ち食い蕎麦の味などなど芝居のあった日常が思い出され、のんきだったなあ…楽しかったなあ…とつくづく思われました。
とにかく歌舞伎に飢えている現状、すべての作品の印象が鮮烈ではありますが、やはり忘れられないのは「新薄雪物語」です。
仁左衛門さんと吉右衛門さんと魁春さんの三人笑いのすさまじさたるや、もうなんと表現したらよいのか言葉が見つからないほどの素晴らしさでしたね…
笑いなのか悲しみなのか切なさなのか解放なのか、もうなんとも言いようがない、しかしながら突き刺さるように一人一人の胸の内が伝わり、心がガシガシと揺さぶられる…という、崇高すぎる体験でした。
あのような至上の芸が無観客の劇場のなかでゴゴゴゴゴとグルーブしていたのかと思いますと、それはまるで何かの儀式のようであり、なんだか異常に興奮してしまって脳が沸き上がりそうです…。。
いつの日か何の心配もない劇場で、同じ配役での再演がありますようにと心の底から願っております。
今はとにかく歌舞伎座に行きたくて行きたくてたまりません。
入り口もぎりの係員の方々のお顔だち、ロビーのご婦人方のざわめきや、絨毯の踏み心地など、全てが鮮明に思い出されます。
あの日々に帰りたいですね…
いつもの千穐楽と同じようにと言いながら、湿っぽくなってしまいすみません。。
先の見えない毎日でありますが.一日も早く事態が終息し、一人でも多くの方の命が助かり、再び芝居を楽しめる日が来ることを切に願っております。