歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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【読書録】「江戸とアバター 私たちの内なるダイバーシティ」 池上英子 田中優子著

外出自粛のゴールデンウイーク、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

まとまった時間が取れるということもあり、以前よりも読書の時間が増えたという方も大勢おいでのことと思います。

このすえひろも積読していた本やもう一度読みたい本などに次々手を付けておりまして、そのなかからおもしろかったものやお役に立ちそうなものを備忘録を兼ねてご紹介いたします。何らかのお役に立てればうれしく思います!

「江戸とアバター 私たちの内なるダイバーシティ」 池上英子 田中優子著

法政大学の田中優子総長と米国ニュースクール大学大学院の池上英子教授の共著。

朝日新聞出版から3月30日に発行されたばかりのほやほやの新書でありまして、緊急事態宣言直前に書店で求めたものです。

特に帯に惹かれましたので文言をご紹介しますと

「自分」を複数もつことの限りない豊かさと創造性!

歴史と未来、デジタルと認知科学を縦横に駆け抜けるスリリングな論考

「身分社会」の江戸でなぜ絢爛豪華な文化が咲いたか?

というもの。

アバターとは、ネットワーク上で自らの「化身」として使う、バーチャルキャラクターのこと。このアバターの概念を江戸時代の人々も持っていて、一人の人が複数の自分を持って身分や性別の差を越え文化芸術の世界を生き生きと楽しんでいた…ということについて語られている書籍です。

 

田中優子先生といえば江戸文化研究者として著名な方ですので、歌舞伎ファンの方の間で著書がすでにおなじみかもしれません。

今回の書籍は少し趣向が異なりまして、2018年12月9日に法政大学にて開催された朝日教育会議「江戸から未来へ アバターforダイバーシティ」をもとに書かれたというもの。当日ゲストとして招かれた池上英子先生の講演と、落語家の柳家家禄さんを交えてのパネルディスカッションの内容も相当のボリュームで章立てされています。

 

池上英子先生は社会学者として仮想空間「セカンドライフ」にてアバターを通じて自閉症スペクトラムの方々と交流、ニューロダイバーシティ(神経回路の多様性を承認すること)という考え方を提唱されている方であります。

このすえひろは恥ずかしながら現代人と思えぬほどにバーチャル的な事柄や横文字に疎く、池上先生のパートに登場する言葉は都度調べつつ読まねば理解できずかなり時間がかかってしまいましたが、田中先生のパートと併せて読むことで江戸という視点を通じデジタルの世界に理解が深まったような不思議な感覚を得ました。

 

前半は池上先生のパートで、江戸時代や自閉症スペクトラム障害の視点を交えながらニューロダイバーシティについての論考が展開。後半では田中先生のパートに移り、浮世絵や「連」の在り方などの具体例を通じて江戸のダイバーシティが語られます。

 

特に柳家花緑さんと池上先生の対談は発見の連続であり、大変おもしろく読みました。ぜひとも、地の文と登場人物全員のセリフを一人で語り上げる文楽の太夫の方にも、アバターの視点を伺ってみたいものです。

そして、人を白黒で裁くような言葉が飛び交い情報に触れているだけでも疲弊してしまいそうな昨今、本書の中の柳家花緑さんの言葉が胸に刺さりましたのでひとつご紹介します。

与太郎って、社会についていけない者たち。(中略)

そんな与太郎が長屋の輪に入ることができている姿に、僕は一番の江戸の多様性を感じるんですよ。

与太郎的な役どころは芝居の中にもたくさん登場しますが、みな社会から受け入れられ、仕事を獲得し、それなりに楽しく暮らしているように見えます。現代社会を生きる私たちとしましては、ぜひこの江戸の懐の深さを見習いたいものだなあと思われました。

 

複数の自分を持って豊かに生きる江戸時代のアバターの考え方は、先日の「名跡」についてのお話にもリンクするように思われます。歌舞伎役者たちは名跡とはさらに別の名を持ち、俳諧を楽しんでいたそうですから、まさしくアバターを使いこなして豊かに暮らしていたわけですね。

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そしてこれは全くの、全くの余談でお恥ずかしいのですけれども、歌舞伎役者の方々がドキュメンタリーなどで本名で呼び合ったりしているのを見ると、妙にときめいてしまうのは私だけでしょうか…なんだかドキッとします。

現代を生きる歌舞伎役者ならではの「アバター」を使いこなしていらっしゃるみなさまに、なんともいえぬ色っぽさを感じてしまうようです。

 

とにもかくにも視点がぐいぐいと広がる発見の書ですので、ご興味お持ちの方はぜひご一読くださいませ。

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