いまだ都市部は緊急事態宣言下にありますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
すえひろはといえばすっかり巣ごもり生活が板についてしまい、気持ちのおもむくままに読書を進めております。そんななかからおもしろかったものやお役に立ちそうなものを、備忘録を兼ねてご紹介いたします。何らかのお役に立てればうれしく思います!
「ギケイキ 千年の流転」 町田康 著
今回はこちら。芥川賞作家でありミュージシャン、俳優としてもご活躍の町田康さんが近年発表されたシリーズ作品の第一巻であります。全四巻を予定しているそうです。
源義経の不遇の人生を描く古典の説話「義経記」を下敷きにしたもので、帯には「抱腹絶倒の超大河小説」とあります。死後もこの世に残っているらしい義経の魂が、現代らしき時代から当時を振り返りながら語るという斬新なものです。
「超大河小説」とあるように一巻の時点でかなりのボリュームがあるのですが、あまりの面白さにもう読むのを止められないという状態で一気に読んでしまいました!まさに「語り」で、浄瑠璃の音源が良いところでカットされると気持ちが悪いのと同じような感覚でありました。
義経記ですので、源義経と弁慶はもちろんのこと芝居でおなじみのキャラクターがどんどん登場します。
この一巻ではちょうど「鬼一法眼三略巻」の鬼一法眼と秘蔵の兵法書「六韜」のエピソードが。芝居ではあまりピンとこない「六韜」というのは、こんなにもものすごい書であったのかということが非常によくわかります。
また弁慶の人物像がかなり病み気味であることもおもしろく、この弁慶の勧進帳では一体どうなってしまうのかなどと想像して笑えてきました。
芝居ではとにかく義経周辺の人物やエピソードがたくさん登場しますから、ユーモアの許容度の高い方であればぜひこのギケイキをとオススメしたいと思い、ご紹介した次第であります!芝居がますます楽しくなること請け合いです。
ギケイキについては「ギャグ満載」「砕けた表現がおもしろい」との評がたくさん見られます。
それはもちろんその通りであると思うのですが、広い意味では浄瑠璃や歌舞伎もこんな感じのノリの時があるよなーと感じており、大きく逸脱しているようでいてすごく古典という不思議な味わいがたまりません。
私自身「どうだおもしろいだろう」という気持ちが透けて見える文章を読むと、「おもしろがると思うなよ」と思ってしまう偏屈なところがあるのですが、そのように感じてしまう箇所は全くないのです。
このぶっ飛びこそがむしろ古典や浄瑠璃、歌舞伎の世界と申しますか、誇張して楽しむことがそもそもスタンダードであるような気がすると気づかされます。
よく考えれば私は高校生のころから町田康さんの小説の大ファンであり、歌舞伎から浄瑠璃、義太夫節、上方文化の香りが大好きになっていったのは、音楽的な関西弁の文体で綴られた町田康作品の影響に違いありません。
一体歌舞伎のどんなところを好きになったのか、一旦歌舞伎と離れることで視野が広がってきたのはおもしろいことだなあと思います。
文庫で購入した「ギケイキ 千年の流転」があまりに面白かったので、2巻にあたる「ギケイキ 奈落への飛翔」の文庫版が待ちきれず、千年・奈落を合わせて単行本で購入しなおしました。2巻並べた時点でかなりのボリュームですが、全巻揃うのが今から楽しみで楽しみで仕方がありません!