待ちに待った八月花形歌舞伎の開幕が、いよいよ今週末になりました…!!
新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発令の影響等で、三月からすべての歌舞伎公演が中止に。実に五カ月ぶりの再開であります。
このすえひろはちょうど二月の千穐楽に歌舞伎座へ出かけまして、帰り道「来月はどうなるのかな…」と一抹の不安を抱いたのですが、あの時はまさかここまで長くなるとは想像だにしませんでした…本当に寂しかったですね…
ちょっと週末が待ちきれませんので、上演される演目について少しずつお話してまいりたいと思います!少し気が早いですが、以前のようなお話ができることがうれしくてなりません。
まずは第四部の「与話情浮名横櫛」からお話してまいります。
なんでも今日の新聞によれば筋書の販売が行われないそうですから、今回初めてご覧になる方にとって何らかのお役に立てれば幸せに思います。
「いやさお富、久しぶりだなァ」
与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)
1853年(嘉永6)1月 江戸・中村座で初演された、三代目瀬川如皐作のお芝居です。
この年の夏にはペリー提督が黒船で来航し、10年と少しで明治時代がやってくる…そんな慌ただしい時代に生まれた、世話物の名作であります。
本当に簡単に内容をお話いたしますと、こういったものです。
①商家の若旦那・与三郎が、いい女・お富と運命の恋に落ちる
②しかし、実はお富は、危険な筋の男・赤間源左衛門の女であった
③デートの現場に乗り込まれた与三郎は刃物でメタメタに切られ、お富は海に身を投げて命を落とした
④数年が経ち、傷だらけの与三郎は落ちぶれ、ならず者となってしまった
⑤ある日与三郎が強請りたかりで入った家に、死んだはずのお富。なんとお富は、違う男の妾になって囲われていた…!
血で血を洗う修羅場、さらに修羅場…という一見重めの恋物語なのですが、与三郎のとにかくカッコいい名台詞や風情ある舞台によって、サラッと粋に仕上がっています。
特に有名なのは「もし、御新造さん。え、おかみさん。え、お富さん。いやさお富、久しぶりだなァ」というセリフです。
呼び名でちょっとずつ距離を詰めていくあたりがなんとも絶妙で、マネしてみたくなってしまいますね。二人の関係性と状況を表現するセリフとしてこんなにスタイリッシュなものは、現代のドラマでもなかなか聞けないのではないでしょうか。
そんなカッコいいセリフが用意されている与三郎は、見るからに傷だらけという特徴的な姿でして、「切られ与三」という通称でも知られております。
明日からはあらすじなどについてもお話していきたいと思います!
参考文献:新版歌舞伎事典