歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい義経千本桜 吉野山 その一 最初のテレビ番組

先日いよいよ開幕した八月花形歌舞伎!待ちに待った再開であります!第三部で上演中の「吉野山」について、少しばかりお話してみます。 

感染予防の観点から今回は筋書の販売が行われず、簡易版の配布のみになっていましたので、今回初めてご覧になる方にとって何らかのお役に立てればうれしく思います。

昭和28年2月1日 日本初のテレビジョン本放送で

吉野山(よしのやま)は、三大狂言に数えられる義経千本桜の四段目にあたる道行の場面「道行初音旅」を歌舞伎舞踊としたもの。「道行初音旅」は義太夫節から常磐津、富本節、清元節へと移され、様々な作品が作られて好評を博していたようです。

現行の「吉野山」は、1808年(文化5年)5月に江戸は中村座で初演された富本節の「幾菊蝶初音道行」と清元節の「菊鶏関初音」に、竹本を加えるなどしてアレンジしたもので、戦後も猛烈な上演頻度で繰り返し繰り返し上演されている人気の歌舞伎舞踊です。

 

 

そんな「道行初音旅」、実は日本で初めてのテレビ番組として放送されたということはご存知でしょうか?

 

今から70年近く前の1953年(昭和28年)2月1日 14:00

NHK東京テレビジョンによる日本における初めてのテレビジョン本放送にて、日比谷のNHK第一スタジオから開局記念式典が放送されたそうです。開局の祝辞は緒方竹虎が勤めたそうですから、まさに昨年の大河ドラマ「いだてん」で描かれた時代に同時進行していた出来事なのだなあと実感が深まります。

そして開局式典の後、劇場からの舞台中継という形で、なんと梅幸・松緑による「道行初音旅」が放送されたのだそうです!!

 

当日の放送プログラムはこのようなものであったそうです。

14:00 「開局に当たり」 挨拶:古垣鉄郎 祝辞:緒方竹虎 大野伴睦
「舞台中継」 菊五郎劇団「道行初音旅」
15:00 「テレビニュース映画」「米大統領就任式実況」
15:30 「歌劇よもやま話」 藤原義江 太田黒雪雄 松内和子
18:30 「歌」 古賀さと子
19:15 「天気の話」 和達清夫
19:30 「今週の明星」
19:30 「漫才」

引用:テレビ番組におけるバラエティ番組の分類 : 創成期  鹿島 我(京都光華女子大学短期大学部研究紀要 2013-12-05)

想像よりも番組の内容がバラエティ豊かであったのだなあと思ったのですがいかがでしょうか。

 

「歌劇よもやま話」が3時間くらいあるぞ…と思いましたが、この番組の放送後、夕方まで放送は休止していたとのこと。18時半の「歌」は童謡歌手の古賀さと子さんによる童謡披露番組で、19時半からの「今週の明星」もラジオと同時放送の人気歌謡番組であったそうです。歌が好まれていたのですね。

こうしたラインナップの中「道行初音旅」が冒頭に置かれていることが、歌舞伎ファンの端くれとしてはなんだかうれしく感動いたしました。

 

当時の受信契約数はわずか866台であったそうですから、梅幸と松緑による「道行初音旅」を目撃できた人は少なかったのではないかと思います。それとも大河ドラマ「いだてん」でも描かれていたように、一台のテレビに対して人々がわんさと押し寄せていたのでしょうか。いずれにせよ、当時の人々にとってテレビジョンというものがどれほど目新しい品であったか伺い知ることができる数字ですね。

 

繰り返し繰り返し上演され、時代の大きな転換点においても披露された演目を、今もこの目で見ることができるというのは本当に幸せなことだと思います。それは各時代の方々が舞台を守るため尽力してくださったからこそであり、今後もこの大切な舞台が続いていくようにと願うばかりです。

 

参考文献:新版歌舞伎事典/ブリタニカ国際大百科事典/NHK放送史/テレビ番組におけるバラエティ番組の分類 : 創成期  鹿島 我(京都光華女子大学短期大学部研究紀要 2013-12-05)

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