歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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ストリートビューで歌舞伎ゆかりの地に行きたかったのだが… 連獅子編

新型コロナの外出自粛期間に始めた「Googleストリートビューで芝居の舞台となった場所とその周辺を訪ねてみる」という遊び。本日もひとつ訪ねてみようと思います。ゆるゆるとした旅ですがみなさまもぜひご一緒にいかがでしょうか。

ただいま上演中の八月花形歌舞伎にちなみまして、第一部「連獅子」ゆかりの地をうろうろしてみたい………と思っていろいろと下調べをしたのですが、なんとゆかりの地ではGoogleストリートビュー非対応でありました。。無念です。。。

せっかく下調べしましたので、ゆかりの地というのは一体どこなのかということをお話してみたいと思います。

前回:義経千本桜 吉野山編 編

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連獅子とは

連獅子」は、親獅子は子獅子を千尋の谷へと厳しく突き落とし、駆け上がることができた子だけを育てる…という有名な故実を下敷きにした歌舞伎舞踊の大人気演目であります。

親獅子の精と子獅子の精をお勤めになる役者さんが赤や白の長い毛のかつらをかぶり、息を合わせて毛を美しく振り回すという、歌舞伎と聞けば多くの方がイメージするような演出でよく知られている演目です。

ゆかりの地「清涼山」

この演目にゆかりの地などあるのだろうか?というところですけれども、それを解き明かすためには「獅子」という生き物の出所について振り返る必要があります。

 

歌舞伎ではもさもさとした長い毛のかつらをかぶることで精霊として表現される「獅子」という生き物は、もともと中国から伝来した伝説上の霊獣であり、あの私たちのよく知る百獣の王ライオンをシンボル化したものを基にして考えられたといわれています。

 

獅子」というのは仏教においては文殊菩薩に仕える生き物とされておりまして、その文殊菩薩の浄土は「清涼山」という場所にかかる石橋の先にあると考えられていました。そして獅子たちは人間が渡れることのできない清涼山の石橋のあたりで、牡丹の花の夜露を浴びたりして戯れあそびながら暮らしている…とイメージされていたようです。

 

もちろん獅子は伝説上の生き物でありますが、「清涼山」そのものは、実在している山なのであります。

中国・山西省五台県の東北に位置する現在「五台山(ごだいさん・ウータイシャン)」と呼ばれる山がまさにこの「清涼山」であり、中国三大仏教聖地のひとつ。あのダライラマも訪問し、2009年には世界遺産に登録されたという霊験あらたかな名所です。

 

こここそが文殊菩薩が住まわれる「清涼山」にあたる場所であろう…と人々に信ぜられたのはなんと5世紀ごろからだそうで、歌舞伎の連獅子が生まれたときから実に1500年程前から信仰を集めていたのであります。

この五台山には歴史に名を遺す国内外の高僧たちが入山、庶民も巡礼を行い、日本からは玄昉や円仁などが入山したと伝わっています。現在でも素晴らしい歴史的建築物が立ち並び、仏教とラマ教を兼ね備えた道場もあることから様々な民族の方々の信仰を集めている聖地です。

 

そんな五台山の風景は観光ガイド等を見るだけでも気持ちが引き締まるような実に素晴らしいものであり、一生かかっても行けるかどうかわからない場所ですから、これはぜひGoogleストリートビューで見たいぞ!と意気込んでおりましたが、残念ながら非対応で叶いませんでした…無念です。

しかしながら、このような霊験あらたかな土地を舞台にしながら、浄土宗と法華宗が互いの宗派をプレゼンしておもしろおかしく言い争う間狂言を加えるなどして「連獅子」を作り上げてしまう、そのおおらかさが好きだなあと改めて感じた次第です。

いつの日かストリートビューが解禁される日がくることを願っております。

 

 

参考文献:新版歌舞伎事典/精選版 日本国語大辞典/世界大百科事典 第2版

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