ただいま歌舞伎座にて上演中の九月大歌舞伎。新型コロナウイルスの感染防止対策として幕間なしの各部完全入れ替え、四部制にて上演されています！
第三部「双蝶々曲輪日記 引窓」は吉右衛門さんが濡髪をお勤めになっている珠玉の名舞台であります。過去にも少しばかりお話いたしましたが、説明不足のため改めてあらすじなどをお話してまいりたいと思います。
さまざまなご事情あるかと思いますが非常におすすめしたい一幕です…！！
お出かけの際、簡単な予習などにお役立ていただければ嬉しく思います。
手水鉢に映った相撲取り
双蝶々曲輪日記（ふたつちょうちょうくるわにっき）は、1749年に大坂竹本座にて人形浄瑠璃として初演されたお芝居。江戸時代のスター職業のひとつである、おすもうさんを主役としている人気演目です。
長い物語のなかで「角力場」「引窓」の場面が特に人気で、現代でもこの二つの場面が繰り返し上演されています。
ぬれかミ・はなれごま 一陽斎豊国 見立三十六句撰 国立国会図書館デジタルコレクション
「引窓」の内容を本当にざっくりと申しますとこのような具合です。
①町人・南与兵衛は、父の後妻のお幸、妻のお早と暮らしていたが、めでたく郷代官に取り立てられることになった。
②そんな与兵衛の家に、殺人を犯した力士の濡髪長五郎がやってくる。濡髪はお幸の実の子であり、母に一目会おうと思ったため。
③しかし与兵衛に与えられた最初の任務は「濡髪を召し捕ること」であった…お幸は濡髪を匿い、どうか見逃してほしいと懇願する。
④濡髪は与兵衛への義理のため縄にかかろうとするが、与兵衛は放生会にことよせて濡髪を落ち延びさせるのだった。
それでは詳しくあらすじをお話してまいりたいと思います。上演のスタイルによって内容が前後したり、変わったりすることがありますが、その点はご容赦くださいませ。
あらすじ②では、人目を忍んでやってきた濡髪長五郎は南与兵衛の継母・お幸の実の子であったということ、そして南与兵衛改め南方十字兵衛の郷代官としての初任務は、殺人犯として追われる濡髪長五郎を捕らえることである…というところまでお話いたしました。
十字兵衛が代官所から伴ってきたさむらい二人は、大坂の難波裏で兄を濡髪長五郎に殺された、自分たちは昼間の捜索を担当するので夜間の捜索を頼む、と依頼。濡髪の人相書きを置いて立ち去ってゆきました。
この話を聞いていたお早は、十字兵衛にとっては理解できないことを言い出します。なんでも、「濡髪を詮議するのはやめてほしい」と言うのです。
いやいや、これは亡父の郷代官を受け継ぎいでさむらいとなって最初の仕事なのですから、大きな手柄を立ててお幸を喜ばせ、孝行がしたい…と十字兵衛が願うのは当然です。
しかしお早は「濡髪を捕らえることこそが親不孝である」などと言っています。
うちの女房は一体何を言っているのだ…と十字兵衛が戸惑っているところ、今度は奥の部屋から継母のお幸がやってきて、「どうかその人相書きを見せてくれ」と言い出します。
なんだなんだ…と十字兵衛が何気なく庭先の手水鉢を覗き込んだところ…
なんと手水鉢の水面に、二階の座敷にいる立派な相撲取り、まさしく濡髪長五郎の姿が映っていたのです…！
エッ…！と十字兵衛が驚き入るところ、お早がとっさの機転で天窓の紐を引き、明りがピシャッと閉ざされ家の中は暗闇に…。十字兵衛が確かに見たはずの立派な相撲取りの姿は、スッと暗闇に紛れてしまいました。
十字兵衛が「家が暗闇になった=夜が来たので俺の役目だ、濡髪を探しに行くぞ！」と勇み立ってみせると、お早は今度は天窓をパッと開けて月の光を差し入れ「まだ昼間ですから…」と言い出します。
何かがおかしい、どう考えてもこの家には濡髪長五郎がいるな…一体なぜ…と考える十字兵衛に、なにやらお幸が小さな箱を持ち出しました。
果たしてお幸は何を言い出すのだろうか…？というところで次回に続きます。
参考文献：新版歌舞伎登場人物事典／増補版歌舞伎手帖 渡辺保／床本集／もう少し浄瑠璃を読もう 橋本治
