歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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「鬼滅の刃」×「京都南座 歌舞伎ノ舘」より『頼光・四天王の世界』

昨日6日より京都は祇園四条の南座にて「鬼滅の刃」×「京都南座 歌舞伎ノ舘」が始まりましたね!!

TVアニメ「鬼滅の刃」と歌舞伎のコラボレーション展示で、2020/11/23(月・祝)までの期間開催されるそうであります。物語の題材にちなんで選出された歌舞伎演目の役に扮したキャラクターの貴重な描きおろしイラストパネルが、歴史ある南座の劇場空間に展示されるという興味深いイベントです。併せて実際の歌舞伎衣装も展示されるそうで、双方のファンが楽しめる内容のようであります。

 

現在社会現象を起こしている「鬼滅の刃」。歌舞伎と浮世絵好きのツボをぐいぐいと刺激され、このすえひろも日を追うごとにドハマりしている状況にありますが、残念ながら会期中に京都の南座まで出かけることができそうもなく、ギリギリと歯を食いしばって耐えております…。

しかしこの機会に初めて歌舞伎の世界に触れる方も多いのではないかと思われ、何かの拍子にこのブログにたどり着かれる方もおいでかと思いますので、今回の展示の歌舞伎演目についてぜひお話したいと思いました!

元ネタの歌舞伎演目や各キャラクターが扮している役どころ、歌舞伎の映像コンテンツなどについて順にご紹介していきたいと思います。

前回:蜘蛛の拍子舞

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頼光・四天王の世界

今回は、メインキャラクターたちが扮している役どころで、歌舞伎においても重要な「源頼光と四天王」についてお話いたしますが、事情がありキャラクターや舞台の画像が使えません。ですので個人的に共通点を感じている、月岡芳年の浮世絵にてご紹介したいと思います。ご了承くださいませ。

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頼光四天王大江山鬼神退治之図 一魁斎芳年 国立国会図書館デジタルコレクション

 

今回炭治郎たちメインキャラクター5人が扮しているのは、平安時代の武将・源頼光(みなもとよりみつ・らいこうとも)と、その家臣の四天王・渡辺綱(わたなべのつな)坂田金時(さかたのきんとき・公時とも)碓井貞光(うすいさだみつ)卜部季武(うらべすえたけ)です。

 

源頼光は実在の人物でありながらその実像はよくわからず、「家来の四天王を引き連れて妖怪退治をした」という幻想的な武勇伝が数多く残っている人物です。大江山の酒吞童子や、葛城山の土蜘蛛、京都の鬼女などなど、さまざま語り伝えられています。

頼光と四天王が実際の歴史の中でどうだったのかは別として、ひとびとの想像を駆り立てるような伝説の数々はエンターテインメントの世界と相性がよく、歌舞伎でも頼光・四天王の世界という一ジャンルが築かれるほどにおなじみの存在となっています。

歌舞伎の舞台で現在も上演されているものでは「蜘蛛の拍子舞」のほかに「土蜘」「茨木」「戻橋」などの演目があり、特に「土蜘」は比較的上演頻度の高い演目です。変化球ですと、「極付幡随長兵衛」に四天王金時の子・坂田金平が登場する劇中劇があります。

 

源頼光は鬼退治伝説の英雄であるうえ、有名な部下はちょうど4人というところが、なんともこの鬼滅の刃とのコラボレーションにぴったりであるなと唸らされます。

こうして考えると日本人はいつの時代も怪異的なものを好み、それをやっつける英雄に憧れ、さらにその怪異の裏側にある悲しみに思いを馳せるという性質があるのでしょうか。時代が変わり外国製の物語にたくさん触れることができるようになっても人の心に根ざし続けている文化があるというのは興味深いものですね。

 

「頼光四天王大江山鬼神退治之図」より、各キャラクターが扮している人物を切り取ってみました。歌舞伎の衣装とは違いますが、ひとりひとりのカッコいいポージングをぜひよくご覧くださいませ。

※都合上キャラクターの漢字表記にゆれがあります。ご了承ください

竈門炭治郎:坂田金時

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幼名の「金太郎」や、「怪童丸(快童丸)」の名前でもおなじみの超人的豪傑であり、伝説の英雄です。足柄山で生まれた平安時代の実在の武士とされていますが、山姥に育てられ熊や猪と相撲を取ったなどの信じがたい超人伝説が数多く残されており、人々の不安な暮らしの中に勇気をもたらす英雄であったのだろうと思われます。

「蜘蛛の拍子舞」では超人的パワーのヒーローを表現する歌舞伎特有の演出「押し戻し」で登場しますので、炭治郎もくまどりをしてひときわド派手な衣装を身に着けているわけですね。似合っています!

冨岡義勇:源頼光   我妻善逸:碓井貞光

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源頼光は、異界の敵に挑み続けた英雄として、人々の間で語り継がれてきたヒーロー。平安中期の武将ということで、歌舞伎の舞台ではこの絵とは雰囲気が異なり、雅で能楽風な金三位烏帽子を身に着けます。義勇さんのクールな感じにマッチしていて素敵ですね。

碓井貞光は、歌舞伎登場人物事典によれば「十歳ばかりより山野に出でて鹿猿を追い回し、諸鳥を射落とし、手にも及ばぬ大石を転ばし、或いは雌の馬に手綱かけて高山広野を馳せ巡り、おのれと切磋琢磨してその身を懲らし、昼夜武芸に励みける」とありかなり伊之助的でもあるのですが、衣装の面からみればたしかに善逸が似合うように思われます!

竈門禰豆子:渡辺綱  嘴平伊之助:卜部季武

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渡辺綱はそもそも男性なのですが、「鬼の片腕を切り落とした」などの伝説をいくつも残す謎めいた超人であるので、この役どころが禰豆子に割り当てられているのは絶妙なセレクトであるなと思います。まさしく渡辺綱による鬼滅ぼしを描いた歌舞伎演目「戻橋」で大活躍します!

卜部季武は、『前太平記』によれば「父の勘当を受けて伊豆の国足柄山で人となり、渡辺綱に見いだされ頼光の家臣となった」人物だそうです。「足柄山で人となり」という部分が非常に気になるのですが情報不足でよくわかりません…伊之助と結びついていることでつい野生児的想像をしてしまうのですがどうなのでしょうか。

 

いずれにしても四天王たちは、山でならした超人的猛者であることが伺い知れ、あらためて絶妙なセレクトであるなと思われます!

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「鬼滅の刃」×「京都南座 歌舞伎ノ舘」 詳細

イベントですが、プランC入場券、プランD入場券、舞台入場のみのチケットは現在購入可能なようです。C・Dは入場特典もついていますので要チェックです!

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