昨日6日より京都は祇園四条の南座にて「鬼滅の刃」×「京都南座 歌舞伎ノ舘」が始まりましたね!!
TVアニメ「鬼滅の刃」と歌舞伎のコラボレーション展示で、2020/11/23(月・祝)までの期間開催されるそうであります。物語の題材にちなんで選出された歌舞伎演目の役に扮したキャラクターの貴重な描きおろしイラストパネルが、歴史ある南座の劇場空間に展示されるという興味深いイベントです。併せて実際の歌舞伎衣装も展示されるそうで、双方のファンが楽しめる内容のようであります。
現在社会現象を起こしている「鬼滅の刃」。歌舞伎と浮世絵好きのツボをぐいぐいと刺激され、このすえひろも日を追うごとにドハマりしている状況にありますが、残念ながら会期中に京都の南座まで出かけることができそうもなく、ギリギリと歯を食いしばって耐えております…。
しかしこの機会に初めて歌舞伎の世界に触れる方も多いのではないかと思われ、何かの拍子にこのブログにたどり着かれる方もおいでかと思いますので、今回の展示の歌舞伎演目についてぜひお話したいと思いました!
元ネタの歌舞伎演目や各キャラクターが扮している役どころ、歌舞伎の映像コンテンツなどについて順にご紹介していきたいと思います。
前回:柱×歌舞伎衣裳①
柱×歌舞伎衣裳②
今回の展示ではメインキャラクターたちの他に、「柱」たちそれぞれの個性に合わせた歌舞伎衣裳が展示されるそうです!
せっかくですのでお一人お一人が割り当てられている歌舞伎の登場人物をご紹介していきたいと思います。
前回お話の通り、事情があってキャラクターや舞台の画像が使えませんので、使用可能な浮世絵が見つかれば浮世絵とともにご紹介いたします!あくまでも役の人物を表現した絵であって、歌舞伎役者を描いた役者絵とも限りませんし、役者絵であっても該当演目のものとも限りませんのでご了承くださいませ。
実際の芝居見物となると上演のタイミングによりけりで難しい場合もありますが、映像作品や公式の動画があるものもありますので併せてご紹介いたします!もしご興味をお持ちでしたらぜひ歌舞伎の演目もご覧になってみてください。
※都合上キャラクターの漢字表記にゆれがあります。ご了承ください
岩柱 悲鳴嶼行冥
役名:武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)
演目:義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
武蔵坊弁慶 市川海老蔵寿海老人白猿 歌川豊国 国立国会図書館デジタルコレクション
「義経千本桜」は、数ある歌舞伎の演目の中でも名作として現在でも大人気のお芝居であります。義経の名前を冠しながら、源平合戦で滅んだ平家のさむらいたちに思いをめぐらす数々の悲劇が描かれます。
武蔵坊弁慶はもとは比叡山の僧侶でしたが、巨体の荒くれ者で追い出され、義経の従者となったという伝説的な人物。実像はよくわからないようですが、歌舞伎の演目にはたくさんの弁慶が登場しています。
本当かどうかはわかりませんが「弁慶は生涯に一度だけ泣いた」という伝説があるそうで、そのたった一度の涙をドラマチックに芝居化して数々の演目が作られているために、かえって舞台上でよく泣くという状態に陥っている役柄でもあり、今回のコラボもなるほどという組み合わせです。
今回のコラボでは「義経千本桜 大物浦の段」での衣裳が採用されています。弁慶が死者の魂を鎮めるために法螺貝を吹き、その音が劇場中に響き渡るという、なんとももの悲しい幕切れの演出がある演目です。
しかしながらこの場面で使用できる浮世絵が見つかりませんでしたので上には「勧進帳(かんじんちょう)」と思われる弁慶の浮世絵をご紹介いたしました。勧進帳も名作中の名作ですのでぜひご興味をお持ちでしたらご覧になってみてくださいね。
どちらも映像作品が発売されています!
風柱 不死川実弥
役名:樋口次郎兼光(ひぐちのじろうかねみつ)
演目:ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき) 逆櫓(さかろ)
樋口次郎兼光 歌川豊国 国会図書館デジタルコレクション
「ひらかな盛衰記 逆櫓」は、源平合戦で義経に滅ぼされた木曽義仲の忠臣・樋口次郎兼光が主人公です。
忠義者の樋口はいつか義経に復讐して主人の仇を討つ日のために、船頭に婿入りし家伝来の逆櫓と呼ばれる船の操縦法をマスター。しかしその動向は義経サイドに知られていて…さあどうなる樋口というドラマチックなお芝居であります。
樋口次郎兼光は木曽義賢の家臣たちの中でもとりわけ強い四天王と呼ばれるひとりで、「逆櫓」では敵をぶん投げて殺したりととにかく強く、荒くれ者だが忠義の心を持った男気あふれるカッコいい人物として描かれています!
恋柱 甘露寺 蜜璃
役名:阿古屋(あこや)
演目:壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)
〔阿古屋〕〔壇浦兜軍記 明治13年4月上演 市村座〕 楊洲周延 国立国会図書館デジタルコレクション
「壇浦兜軍記 阿古屋」も、源平合戦の物語。平家の残党・悪七兵衛景清が失踪したために愛人の遊女・阿古屋が厳しい取り調べを受けるという舞台です。
その取り調べの内容が変わっていて、役人のまえで「琴・三味線・胡弓=三曲」を生演奏するというもの。もし偽りがあれば、この音が乱れて知れるであろうという寸法であります。
阿古屋は景清の子をお腹に宿しているのですが、絶対に口を割ることなく、一切の動揺も見せずに楽器を見事弾き上げるという強靭な精神力を持つ女性です。取り調べの場に美しく着飾ってやってきて、遊女の堂々たる姿を見せつけるというカッコよさもあり、客席もワッと盛り上がるそんな演目であります。
youtubeに、坂東玉三郎(ばんどうたまさぶろう)さんによるシネマ歌舞伎の予告編がありました!
「阿古屋」をお勤めになる役者さんは、なんと舞台の上で実際に「琴・三味線・胡弓」を演奏できなければならないということで、お勤めになる方の限られる演目です。現在玉三郎さんからお若い世代の方に伝承されていますが、上演の機会は非常に貴重ですのでチャンスがあれば是非にとおすすめいたします!
蛇柱 伊黒小芭内
役名:白拍子花子 娘道成寺後ジテ
演目:京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)
新形三十六怪撰 清姫日高川に蛇体と成る図 月岡芳年 国立国会図書館デジタルコレクション
「京鹿子娘道成寺」は、歌舞伎舞踊の中でも最高峰とされる豪華絢爛な舞台です。美しい白拍子花子という女性が、女心をさまざまに踊り分けるというものであります。なぜにこの演目が選出されたのかといえば、「花子が最終的に蛇化する」という驚きの展開が繰り広げられるからかと思われます!
この演目は紀州に伝わる安珍清姫伝説なるものが下敷きになっています。これは恋した僧に裏切られた清姫が執念のあまり蛇になり、僧が逃げ込んだ鐘ごと焼き殺してしまったという、ネチネチ界でも相当のねばりを持つ伝説です。
蛇化した花子の衣裳は「鱗文様」と呼ばれるもので、三角形を並べることで鱗が表現されています。三角形を並べた柄といえば善逸も着ていますが、鱗文様はもっとびっしりとしたもので、この浮世絵にも描かれています。歌舞伎の舞台で鱗文様を着ている人が現れたら、まず人間ではない、大方蛇であろうなと思って良いものです。
youtubeに公開されているシネマ歌舞伎「京鹿子娘五人道成寺」の予告編に少しだけそのシーンが映っていました!
鐘に取り付いて、大蛇がとぐろを巻いているようすを表現します。
この上演はかわるがわる5人の白拍子花子が登場して圧巻の美しさでした!「シネマ歌舞伎」として映画館でも上演されることがありますので機会があればぜひにとおすすめいたします。
さて、長々とご紹介してまいりましたが、とにもかくにも歌舞伎との相性が良さそうなようすで興奮します…!!!
シンプルに鬼退治というだけではなくて、仏教や神道、ご先祖、地域伝承的なもの、モノローグ的表現などもとても相性が良いと思われるので、浄瑠璃化もおもしろそうです。歌舞伎のみならず文楽でも拝見してみたいなあと夢がふくらみます。
現在の状況が好転し、一日も早く劇場が活気づきますようにと切に願っています。
個人的に、無限列車編に登場する鬼の魘夢が上方の和事(わごと)と呼ばれるジャンルの香りがして好きになりました。本来の和事は恋に溺れる軟弱な色男の役どころであって、和事でありながら本当に悪い役というのは歌舞伎ではあまり思いつかないので魅力を感じます。ぜひまた映画館で拝見したいなと思います!
「鬼滅の刃」×「京都南座 歌舞伎ノ舘」 詳細
今回のイベントですが、プランC入場券、プランD入場券、舞台入場のみのチケットは現在購入可能なようです。C・Dは入場特典もついていますので要チェックです!