2021年歌舞伎座の二月大歌舞伎第二部にて「於染久松色読販」が上演されています。
玉三郎さんの土手のお六に仁左衛門さんの鬼門の喜兵衛というファン垂涎の配役で、南北作品の退廃した世界が見事な絵のように見えてくる夢のような一幕です。
土手のお六は江戸時代にも人気キャラクターであったようで、お六を描いた浮世絵がいくつか見つかりまして、歌舞伎座で購入した玉三郎さんの舞台写真と併せて拝見して楽しんでいます。
浮世絵もどれも素敵ですのでぜひ一緒にご覧いただきたく、ここにひとつ集めてみます。掲載可能なもののみですのでご了承くださいませ。
木曽六十九駅 倉ケ野佐野ノ舟橋旧跡・土手のお六
出典:国立国会図書館デジタルコレション
木曽六十九駅 倉ケ野佐野ノ舟橋旧跡・土手のお六
豊国の嘉永5の作品 俳優似顔東錦絵よりの一枚、五代目半四郎の土手のお六です。
「木曽六十駅」は木曽街道の宿場を背景として人気役者を並べたシリーズで、当時の人々の旅情を刺激していたものと思われます。右上のタイトル部分に駕籠などのアイテムが描かれていて、鬼門の喜兵衛と駕籠を担ぐ姿を想像させてくれます。
「眼千両」とたたえられたという五代目半四郎は、目がくりくりなことだけではなくてくちびるがぽってりとして少し受け口気味なところもたまらない可愛さだなあと思います。
こんなかわいいお顔をしてゆすりを働いて見せるというのは、当時の観客にとっては相当のおもしろさがあったのではないでしょうか。
かたりおふせた大まいの金性土手のお六
出典:国立国会図書館デジタルコレクション
かたりおふせた大まいの金性土手のお六
豊国安政5年の作品で、三代目岩井粂三郎のお六です。
「かたりおふせた大まい」とあり、見事な振袖を抱えていますので、どうやらお六はここではゆすりに成功したらしいですね!暗闇に浮かぶ姿がいかにもワルなムードです。
土手のお六・願哲坊
出典:国立国会図書館デジタルコレクション
土手のお六・願哲坊
豊国 安政3年の作品で、見立三十六句撰のうちの一作。横にいるのは鬼門の喜兵衛ではありませんで、願哲坊というお坊さんです。お坊さんでありながら人の首元を踏みつけていてとんでもない場面であります。
このお六は初代 坂東 志うか(没後五代目三津五郎)、願哲坊は初代松本錦升のちの六代目幸四郎です。
初代坂東志うかはかわいい五代目岩井半四郎の芸風をよく受け継いで土手のお六のような伝法な女性の役を得意とし、八代目團十郎と鳴らした人気役者であり、人望もあったそうですが、残念ながら若くして亡くなってしまった方です。クールな顔つきが素敵ではないでしょうか。
どのお六も、女方の美しさを保ちながらも、なんだかとても生き生きとしてカッコイイなあと思います。
江戸時代の女形の方々は立役に比べていろいろと立場的に弱い部分があったり、心情的にさまざまなフラストレーションがあったのかなと想像していますが、そういった意味でも「悪婆」はスカッと発散できる役だったのかもしれませんね。