ただいま歌舞伎座で上演中の三月大歌舞伎!
第三部で上演されている「楼門五三桐」は、有名な大どろぼうの石川五右衛門が登場する歌舞伎らしさあふれる演目です。今月は吉右衛門さんが石川五右衛門をお勤めになっています。
先日、以前にもこちらのブログでお話したものをまとめました。
少しお話を加えていきたいと思います。何らかのお役に立つことができれば幸いです。
絶景かな、絶景かな
楼門五三桐(さんもんごさんのきり)は、元の外題を「金門五三桐(きんもんごさんのきり)」といって、安永7年(1778)に大坂角の芝居で初演された演目です。繰り返し上演されるうち「楼門五三桐」の外題になりました。
「五三桐」という言葉が外題に使われていることから、秀吉に関係があるらしいなという前情報を得ることができるようになっています。秀吉に関係の深い大どろぼう石川五右衛門の伝説をお芝居としたものです。
南禅寺の山門にたたずむ石川五右衛門がとにかくド派手にカッコよく登場するというのがお楽しみの演目で、通常「楼門(ろうもん)」のところを「楼門(さんもん)」と読ませています。
上演時間は15分と非常に短く、詳しい状況説明なしでいきなり始まっていきなり終わるという演目です。歌舞伎らしさが爆発しているのでそれでも十分に楽しめるのですが、内容をつかむとよりおもしろくなるかもしれません。
ざっくりとお話してまいりますので、お役に立てれば幸いです。
豊国 石川五右衛門・大願久吉 国立国会図書館デジタルコレクション
①では、時代背景などの前提情報についてお話いたしました。
天下人の真柴久吉が、大どろぼうの石川五右衛門から大切な千鳥の香炉を盗まれ、家臣たちが盗賊の詮議に奔走しているという状況です。
舞台は桜も満開の京都・南禅寺。時はうららかな春の夕暮れどきです。
南禅寺はご存知の通り現代でも指折りの名所として知られる絶景のお寺で、それを基にした舞台の上の大道具も華やかで素晴らしいものです。幕が開き大薩摩の演奏が終わると、舞台を覆っていた浅葱幕と呼ばれる幕がバサッと切って落とされるという心躍るような演出がなされています。
浅葱幕が落ちて姿を現すのは、南禅寺の楼門・三門の回廊でどっかりとくつろぐ石川五右衛門。天下人の取手から追われているにもかかわらず、少しも動じずに堂々たる風格を漂わせています。
桜満開の京都の眺めは絶景だなあという五右衛門のセリフは、歌舞伎屈指の名台詞として大変有名ですのでこちらにご紹介いたします。
絶景かな 絶景かな
春の眺めは価千金とは 小せえ 小せえ
この五右衛門が眼から見れば 価万両 万々両
日もはや西に傾きて 雲と棚引く桜花
あかね輝くこの風情 ハテ 麗らかな眺めだなァ
情景の描写といい、語感といい、五右衛門のスケール感を見事に顕しながら、役者さんの魅力を爆発させている素晴らしい台詞であるなと改めて思います。
私は「小せえ小せえ」にしびれてしまうのですが皆様はいかがでしょうか。
と、そんな折、どこからともなく一羽の美しい白い鷹が飛んできて、三門の欄干に止まります。人間がいるのに、妙に人馴れしている鷹だなあと怪しむ五右衛門は、鷹がなにか白い布切れをくわえていることに気が付きます。
五右衛門が白い布切れを取って見てみますと、それは小袖の片袖でありました。
歌舞伎で小袖の片袖が登場すると、そこには重要メッセージが隠されていることが多く、その傾向の通りこの小袖の片袖にも、血文字による重要メッセージがしたためられていました。
石川五右衛門 豊国 安政大地震絵 国立国会図書館デジタルコレクション
この血文字は、大明国の十二代神祖皇帝に仕えた男・宋蘇卿の遺言であったのです。
なんのこっちゃというところで、次回に続きます。