現在歌舞伎座で上演されている八月花形歌舞伎！
第三部で上演されている「源平布引滝 義賢最期」は、幸四郎さんの義賢に高麗蔵さんの葵御前、梅枝さんの小万、隼人さんの折平に米吉さんの待宵姫という配役。緊張感あふれる素晴らしい一幕でした。
「源平布引滝 義賢最期」については、過去にもお話したものがあります。下記の通り先日まとめましたが、肝心の内容についてはあまりお話していませんでした。今月少しばかりお話を足していきたいと思います。何らかのお役に立てればうれしく思います！
折平の正体とは
義賢最期（よしかたさいご）は、「源平布引滝（げんぺいぬのびきのたき）」という全五段のお芝居の一部が独立して上演されているものです。もとは人形浄瑠璃で、1749年（寛延2）11月の大坂竹本座にて初演、8年後の1757年（宝暦7）9月の大坂角の芝居で歌舞伎として上演されました。
国立国会図書館デジタルコレクション 豊国「木曽六十九駅 須原木曽舘跡・義賢」
源平布引滝の二段目にあたる「義賢最期」の場面は長らく上演が絶えていましたが、当代の仁左衛門さんが昭和40年代にお勤めになって以来、人気の一幕となっています。
源平布引滝という題名の通り源平合戦を題材としたお芝居で、大筋はこのようなものです。
①時は平家全盛、源氏の再興を願う木曽先生義賢が、病気で館に引きこもっているところ、
②平家の使者たちが現れ、
③義賢はひとり立ち向かって命を落とす
このシンプルな筋にいろいろと複雑な事情が絡んでいきますので、詳しくお話してまいります。
②では、義賢の館に、あるお百姓さんの家族が訪ねてきた場面をお話いたしました。
７年行方知れずの夫が折平と名乗って義賢の下に仕えていると知った小万という女性と、その父・息子です。一家の事情を知った義賢の娘・待宵姫は、当の折平と恋仲にあったので動揺してしまい……といったところでした。義賢の現妻の葵御前が、小万一家をひとまず奥へ招き入れたところで舞台は一区切りを迎えていました。
そこへ、当の折平が館へ颯爽と戻ってきます。
恋仲にある待宵姫は折平を待ち受け、ちょっとあなたの奥さんっていう人が来てるんだけどどういうことなのよと責めますが、義賢の大事な使いで出かけていた折平はそれどころではないらしくそっけない態度です。
歌舞伎においてお姫様は「なにはさておき恋愛に夢中」という記号的なキャラクターがお約束ですので覚えておくと便利です。この恋が叶わないなら私もう死んじゃうんだから、という具合に極端な恋愛体質であることが多いです。一方で恋の相手は、恋よりも忠義や本懐で忙しいというのが常です。
と、そんなところへ、奥の一間からいかにも具合の悪そうな義賢が出てきました。
歌舞伎において病人は、病鉢巻という紫色の鉢巻を垂らして月代を伸ばしていることが多いです。このおかげで、演技だけでなく見た目からもこの人は具合が悪いらしいということがわかります。これが敵を欺くための仮病であることもあり、芝居のおもしろみになります。
義賢は、折平妻子持ち問題に夢中の待宵姫を下がらせると、折平に頼んでいた一件についてたずねます。頼んでいた件というのは、都にいる源氏の一族・多田蔵人行綱（ただのくらんどゆきつな）へ書状を届けてほしいというものです。
しかし折平の答えは、書状を届けるどころか多田行綱の館さえありませんでしたよ、という残念なもの。折平は書状の入った文箱を義賢に戻し、御前から下がろうとします。
そうか…と文箱を受け取った義賢は、文箱の封が切れていることに気が付きました。
義賢はすぐさま折平を呼び止めて立ち上がると、庭先の手水鉢を松の小枝でスパーンと割ってしまいます。そして、私は平家打倒・源氏再興を目指している。お前も正体を明かしなさいと迫ったのです。
折平の正体とはいったいというところで、次回に続きます。
参考文献：新版歌舞伎事典／歌舞伎手帖／歌舞伎登場人物事典
