歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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中村吉右衛門さんの訃報に

今日は歌舞伎座の初日でしたが、二部の終演後に吉右衛門さんがこの世を去られたことを知りました。色彩豊かな歌舞伎座の空間で受け取る訃報はとても信じがたいもので、今でも言葉がまとまりません。

寒くなってきたから播磨屋の由良さんが見たい、そうしたら松浦候も見たい…と、次々に大好きな役の数々が浮かんできます。

もし吉右衛門さんのお姿をもう一度拝見することができたら、そこには「大播磨」という声が聞こえてほしい、幕見で繰り返し繰り返し見たい芝居もあった、いつもの歌舞伎座が戻らないままに、もう永遠に吉右衛門さんのお芝居が拝見できなくなってしまったんだという事実が受け入れがたく、やりきれない思いです。

気持ちを整理していくなかで鮮明に思い出されたのは、歌舞伎座の1階花道近くで勧進帳の弁慶を拝見した時、椅子の座面からドスンドスンと体に響いてきた六方の足取りでした。

どんなに舞台映像を拝見しても、あれはもう二度と体験できないものだと思うと、吉右衛門さんが確かに舞台の上で生きていたことが自分の体に残っていることがうれしく、かけがえのないものに思えました。

友人たちと吉右衛門さんの思い出を語り合い、たとえ舞台上と客席というはるかな距離の間のことであっても、生きている人間同士のやりとりというのはその場にしかないこの上なく美しいものだと改めて思いました。

吉右衛門さんが倒れられてからの数か月もそうであったように、今後もお姿を生き生きと思い浮かべながら芝居を拝見することになるはずです。思い出があることが何よりのしあわせと思い、目の前の芝居を噛みしめていきます。ありがとうございました。

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