歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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2021年をふりかえり…

早いもので2021年も今日でおわり…

今年はあまりにも悲しいニュースが最後の最後にもたらされたので、なんだかいまだに虚ろな気持ちです。それでも一年をふりかえれば、素晴らしい芝居の思い出が次々にあふれてきます。こんなにも悲しい気持ちになるのなら、これ以上歌舞伎を好きでいるのはつらいと思う一方、喜びや楽しみもまたとても手放しがたいものです。

役者さんの命の中にしかないもの、その方が一生かけて培われてきたものをこの目で見ることができる、役者さんご本人と自分自身が存命のうちに舞台と客席の間で相まみえるというのは、もう本当にそれだけで信じられないほど幸せなことだなと改めて思いました。

思い出されるのは桜姫

今年は5月に秀太郎さん、12月に吉右衛門さんという、あまりにも存在感の大きいお二人がこの世を去られましたね。お二人の最後の役をそれぞれ拝見することができたこと、特に秀太郎さんのご出演になった昨年の顔見世興行は本当に限られた日数でしたので、秀太郎さんの藤の方を拝見できたのは幸せなことでした。

 

しかしながら、どちらも当然これが最後などとは全く思っていませんでしたから、どんなに幸運でもやはりショックです。今でもまだいつかまた舞台にお出ましになるような気がしていて。歌舞伎座三階の「思い出の歌舞伎俳優」の写真で拝見するのが本当につらく、近ごろはあまり直視できません。これから吉右衛門さんのお写真も入るのかと思うと、なんだかもう本当にやりきれない思いです。

 

言っていても仕方がないことですが昨年中止になった「新薄雪物語」を生で拝見する機会が永遠に失われてしまったのも残念でなりません。新型コロナで失われたものが大きすぎて途方もなく悔しく思いますが、本番同様の舞台をyoutubeで配信してくださったのは本当にありがたかったなと再び感謝の念を深めています。

 

先日友人に吉右衛門さんの写真集を見せていただき、まるで舞台を目の前にしているかのような体験をしました。見ているこちらもさむらいになってしまうようなあの大きさ。かっこよさとかわいらしさ。たまりませんでした。

多くの写真が歌舞伎座の舞台のもので、同じ空間で起こっていることとはとても思えないような説得力に圧倒されました。

東銀座の一角のあの空間の中で人生の多くの時間を過ごされ、そのうえで時代を超越して役の思いを体から漂わせ、絶対的な説得力を持たせるという、歌舞伎役者の凄まじさを改めて感じます。なんて尊いのだろうと思います。

若い世代の歌舞伎役者の方々から、いつの日かまたこの感覚を感じられる日が必ず来ると信じ、それを楽しみに、今後も歌舞伎を愛していきたいです。

 

悲しいことばかりをお話してしまいましたが、幸せな思い出もたくさんあります。

なんといっても仁左衛門さんと玉三郎さんの「桜姫東文章」を、肉眼で拝見することが叶ったことは、心の底から生きていてよかったと思うほどの幸せでした。まさか今生拝見できるとは。あの舞台の映像を授業で見たことが現在の自分に繋がっているので、生きていたらこんなにいいことがあるのかと思いました。

 

そして一番感動したのは11月の歌舞伎座で仁左衛門さんが本興行最高齢でお勤めになった「連獅子」です。最後に顔を上げられた仁左衛門さんのきらきら光る眼を見て、それがあまりにも輝かしく、私も一生何かに挑戦していたいと勇気をいただきました。

つらいことは大小さまざまたくさんありますが、とにかく生きていたら何かいいことがあるのかもしれないと思えた、そんな芝居体験でした。全てがたからものです。

 

ブログをお読みいただいた皆様には、本年中も大変お世話になりました。来年も引き続き運営してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。

町や劇場も活気づいてきていますが、現在も様々な事情により劇場から遠ざからざるを得ない方も大勢おいでのことと思います。微力ながら、少しでも芝居の気分をお届けできていたらうれしいです。

来年はどんな芝居が待っているのでしょうか。来年こそ良い年にしてまいりましょう。

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