ただいま歌舞伎座で上演中の壽初春大歌舞伎!
第一部で上演されている「一條大蔵譚 檜垣・奥殿」は、近年の上演頻度が高い演目です。過去にお話した回もありますが、この機会に改めてお話してみたいと思います。芝居見物や配信などでのお役に立つことができれば幸いです。
それはそうと、昨晩はトンガの大噴火に伴ってこの日本でも広域にわたって津波警報が発令され、急なことで恐ろしかったですね。沿岸部の方はさぞやご不安なことと思います。トンガの大噴火は計り知れないほど大きな出来事のようですから、今後も影響があるやもしれません。みなさま何卒お気をつけくださいませ。
鬼一法眼三略巻
一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)は、1731年(享保16)9月に文耕堂・長谷川千四の合作で大坂は竹本座にて初演された「鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)」という人形浄瑠璃の中の一場面。全五段ある鬼一法眼三略巻のうち、四段目にあたる場面です。
鬼一法眼三略巻は、軍記物語「義経記」に登場する鬼一法眼という陰陽師と、鞍馬山にいたという天狗・鞍馬天狗の伝説を題材とした能楽を取り入れたおはなしです。陰陽師やら天狗やら妙にファンタジックな感じがしますがそれほどでもありません。
義経記では、天下の兵法書「六韜三略」を所有している鬼一法眼のもとへ、義経が忍び込むという内容が描かれます。その設定を土台として、牛若丸(源義経)の母・常盤御前や一条大蔵卿(一条長成)など史実の人物を登場させ、リアリティを加え脚色したのが「鬼一法眼三略巻」です。
七伊呂波拾遺 三略ノ巻鬼一法眼(部分)国立国会図書館デジタルコレクション
大きな軸は「平家全盛の世、鬼一法眼・鬼次郎・鬼三太という三兄弟が、牛若丸(源義経)に協力して平家調伏を目指す」というものです。三兄弟のうち「一條大蔵譚」には鬼次郎が登場します
武蔵坊弁慶の生い立ちや、牛若丸と弁慶の五条橋の出会いなど、義経記で有名な場面も盛り込まれていますが、現在歌舞伎で上演されているのはそことは一見あまり関連のない「菊畑」と「一條大蔵譚」の場面が中心です。「一條大蔵譚」には登場しない源義経の存在を常に念頭に置いてみるとわかりやすくなるかと思います。
余談ですが「鎌倉殿の13人」に鬼一法眼は出てくるのでしょうか…。実在していたのかわからない人物らしいので出てこなそうとは思われますが、出てきたらうれしいですね。
鬼一法眼三略巻の元ネタの一つである「義経記」を題材とした町田康さんの小説「ギケイキ」には、鬼一法眼が登場していました。こちらもおもしろいのでぜひにとおすすめいたします。
参考文献:新版歌舞伎事典/かぶき手帖/日本大百科全書