早くも十月も半ばを過ぎてしまいましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
このすえひろはといえば、寒さによる寝つきの悪さに耐えられず、早くも湯たんぽを使いはじめました。十月半ばからぬくもりで体を甘やかしてしまい、この冬を越せるのか不安です。がんばります。
さて、先日のお話ですが、芸術祭十月大歌舞伎の第一部を拝見してまいりました!備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。
荒川十太夫に感涙
第一部は「三代猿之助四十八撰の内 鬼揃紅葉狩」「荒川十太夫」という狂言立てでした。
「三代猿之助四十八撰の内 鬼揃紅葉狩」は、戸隠山の鬼女伝説を題材とした澤瀉屋ゆかりの舞踊劇です。美しい女性からお酒を勧められて盃を重ね、寝て起きたら鬼だったという、いわゆる鬼女の舞踊であります。
更科の前実は戸隠山の鬼女を猿之助さんが、平維茂を幸四郎さんがお勤めになっています。間狂言には雀右衛門さんが神女八百媛としてご出演で豪華でした。神女ということで、雀右衛門さんのお声が普段と違って低めのキリリとしたお声で、これもまた素敵でした。新鮮です。
猿之助さんの舞踊は見事で、後シテの素晴らしさはもちろんのこと、前シテの可憐さ、美しさがたまりませんでした。可愛らしく、色気もあり…。芸を深めた女形の方が、ご自身が生来お持ちの肉体な美しさをさらに超えて、あらゆる女性像を自在に行き来し始めるときがあると思います。猿之助さんの舞台をこういったタイミングで拝見できているのは、本当に幸運なことです。
そして…前から私が勝手に妄想してはこうしてしたためている「新作歌舞伎 鬼滅の刃 遊郭編」の展開がいっそう豊かになりました。序盤に一幕、吉原遊郭を舞台とした鬼揃紅葉狩のような鬼女ものの舞踊劇を入れたらおもしろいのではないかと思ったのです。
遊郭の客や鬼殺隊の面々がうつらうつらと眠ってしまい、おいらんとしてもてなしていた堕姫がすっぽんから本性を顕すというような。堕姫の帯の部分も、今回のように小さな鬼女たちの毛振りで表現できるのではないでしょうか。遊女実ハ帯、というような。今回の侍女実は鬼女をお勤めの方々が非常に生き生きとされていたので、そんなことを妄想しました。
舞踊劇で物語世界へと導入し、妓夫太郎が出現する立ち回りや、禿たちのコミカルな舞も挟み、宇随さんのお話は時代で重厚に描き、妓夫太郎と堕姫の物語は生世話で泣かせたい、最後は迫力の大立ち回り…とありますから、昼夜通しでないととても描き切れませんね…。
妓夫太郎は勘九郎さん、堕姫は七之助さんという配役で拝見したいので、対する鬼殺隊はどなたがお勤めになるか、これもハードルが高いです。しかし、必ずおもしろくなると思います。妄想がはかどります…!!!
続く「荒川十太夫」は、赤穂浪士・堀部安兵衛にまつわる忠臣蔵外伝の講談を題材とした新作歌舞伎です。主役の荒川十太夫を松緑さんが、堀部安兵衛を猿之助さんが、荒川十太夫の主君松平隠岐守を坂東亀蔵さんがお勤めになっています。
松緑さんが新作歌舞伎で主役をお勤めになるのは、なかなか貴重な機会ではないかと思います。想像ですが、確固たる歌舞伎観をお持ちで、新作歌舞伎出演へのハードルをとても高く設定なさっている方なのではないかなと想像します。
そんな松緑さんが主演なさるだけあって、配役、演出、音楽、全てにおいて違和感や無理を感じない、素晴らしい演目でした。。「これは新作だ」という、脳内変換のワンステップがないので、ストレスがありませんでした。1時間あまりの尺のなか、時空を行き来させながら、あれほどの濃厚な人物描写を歌舞伎として実現するというのは、並大抵のことではないと思います。
原作の講談の良さはもちろんあると思いますし、大胆に構成を変える発想もあるかとは思いますが、あくまで私の感覚では、講談を歌舞伎の舞台で表現した結果としてとにかく見事だなと感じました。
そのおかげで物語そのものの良さがすんなりと胸に沁み入り、人間模様にほろりとさせられ、大好きな芝居になりました。ぜひ、この先も何度も何度も上演を重ね、令和の古典として残ってほしいと切に願います。