急速に年末ムードがただよい始めていますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。寒い日もぐっと増えましたので、体調管理にはお気をつけくださいませ。
このすえひろはといえば、今年の京都の顔見世の空き時間でどこのお寺をお参りしようか、ああでもないこうでもないと悩んでおります。顔見世のおかげでずいぶんと京都に訪れる機会が増え、芝居の空き時間の小旅行を楽しんでおります。
しかしながら祇園四条からの所用時間が要ですので、遠方のお寺はまだめぐることができておりません。京都マスターになるには長い年月がかかりそうです。
さて、先日のお話ですが、歌舞伎座へ出かけまして十三代目 市川團十郎白猿襲名披露 八代目 市川新之助初舞台 十二月大歌舞伎の昼の部を拝見してまいりました!備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。
また当代の名跡のうち「白猿」という部分についてどのように使われるのか、メディアによってまだまちまちのようですので、このブログでは團十郎と表記いたします。何卒ご了承くださいませ。
二人の花子に夢中
市川團十郎といえば、江戸歌舞伎における最高の名跡。コロナ禍を受けた2年間の延期を経て、先月より二カ月連続の襲名披露がようやく幕を開けています。先代、先々代とご覧になってこられた方にとっては、格別の襲名披露なのではないでしょうか。
浮世絵好きとしましても格別の思い入れのある名跡で、代々の絵姿が浮かんきます。それぞれに濃厚なドラマを持った歴代の團十郎たち。先代への愛着は変わらないものながら、自分の時代の團十郎さんはこの方なんだなあと思うと、何ともいえずワクワクいたします。様々な捉え方がありますが、このような時代の転換点に歌舞伎ファンでいられたことを私自身は素直に喜んでおります。
昼の部は「鞘當」「京鹿子娘二人道成寺」「歌舞伎十八番の内 毛抜」という狂言立てです。
「鞘當」は吉原仲之町にて、すれ違いざまに刀の鞘が当たった男たちが一触即発になるという、時代によっては任侠映画のような濃いめの仕上がりになりそうなワンシーンです。しかしながら練り上げられた様式によって、無駄のない洗練されたシーンとなっています。歌舞伎のおもしろいところですね。
今回は不破伴左衛門に松緑さん、名古屋山三に幸四郎さんという配役です。二人をとどめる役どころは偶数日が中車さん、奇数日が猿之助んさんで、私が拝見したのは留女に猿之助さんの日でした。姿といい形といい御三方のバランスが抜群で、三枚組の浮世絵のように美しかったです。
続く「京鹿子娘二人道成寺」は、菊之助さんと勘九郎さんが白拍子花子をお勤めになるという珍しい取り合わせ。そして最後に團十郎さんが押戻として登場しました。
菊之助さんと勘九郎さんの花子は重心からして違った全く別の味わいで、花子が二人いる二人道成寺のおもしろさをつくづく感じました。白拍子花子の光と影を見たような。できれば何度も何度も拝見したい名演でした。
勘九郎さんの花子は立役の時の体格が信じられないほどに華奢で、恋する可憐な娘さんという印象。一方、菊之助さんの花子は、重厚な気品を漂わせながらも底知れぬ恨みを内包した情念の女性という印象でした。娘道成寺の詞章で描かれている恋模様の陰陽がありありと立ち上って見えてくるようで、なんておもしろい踊りなんだろうと改めて思いました。すごい時間でした…。
また押戻付きの上演はかなり久しぶりだったように記憶しており、大変心躍りました!美しいだけでは終わらないから花子に底知れぬ怖さと魅力を感じ舞台に見入ってしまうのであって、劇場中に広がらんとする魔力が押戻によって鎮められて初めて、道成寺が描いている世界が完結するように感じます。大変おもしろかったです。
「歌舞伎十八番の内 毛抜」は、新之助さんの初舞台として上演されている演目。
新之助さんが主役の粂寺弾正を最年少9歳でお勤めになるという驚きの趣向でした。小野春道に梅玉さん、腰元巻絹に雀右衛門さんといったベテラン勢との共演です。
お子様がこのお役をお勤めになることの是非については様々なご意見ありますけれども、一般的な9歳というのは1時間にも及ぶ舞台を、これほど立派にお勤めになれるものなのだろうか…とただただ驚いてしまいました。
セリフも棒読みではなく一度ご本人の内面を通って意味を持ち、メリハリをつけて発されているように見えましたし、動きもしっかりと入っていて。なにより十二代目にそっくりで十二代目が小型化されたかのような錯覚を受けました。いったいどうなっているのですか…。
なによりこの一幕が「かわいい子役だね、頑張ってるね」で終わっていないのは、ご共演の方々のしっかりとした脇の固めによるものだろうと感じ入りました。
とにもかくにも、先月、今月と新之助さんの芝居心に圧倒されました。できれば、お子様の内に一般的な子役の役どころも、ぜひ拝見したいところです。具体的には義経千本桜の渡海屋・大物浦の安徳帝や、伽羅先代萩の千松などです。時間に限りがありますので、今後叶ってほしいなと願ってやみません。