歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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二月をふりかえり… 2023年

早いもので二月も今日でおわり…

今月は歌舞伎座の内容が大変に心躍るもので、芝居の楽しいひと月でした。

仁左衛門さんの一世一代、また富十郎さんの追善が、無事のうちに執り行われて本当によかったなあと安堵しております。

もう二度と見ることのできない完成形を名残惜しみながら、今後数十年への新たな希望を同時に感じ、やはり歌舞伎が好きだなあとつくづく思った次第です。

ありがたし定額制

今月の思い出はやはりなんといっても仁左衛門さんの一世一代の霊験亀山鉾ですね。

定額制観劇サービスが実施されていたおかげで、忙しい月にもかかわらず一世一代の舞台を存分に楽しむことができました。

ちょっとした空き時間にも歌舞伎の予定を組み込めるというのは、働く者にとっては本当にありがたいことです。今後どうなるのかわかりませんが、ぜひまた実施していただきたいものだなあと祈っております。

 

そんな一世一代の霊験亀山鉾、初日間際には心配な出来事もありましたが、千穐楽までご無事で何よりでした。大学生の時に大阪で拝見した思い出深い演目でもあり、長い時を経て歌舞伎座の一世一代まで拝見できたのは、大変感慨深いものがあります。

ファンの端くれとしては、休演なさってでもご無理なさらないでいただきたいという心配と、どうか悔いなく全日程お勤めになっていただきたいという願い、相反する思いに揺れる日々でしたが、ひとまずこのような結果になり安堵いたしました。

 

四月の切られ与三で、再びご活躍を拝見できることを心待ちにしております。こちらは昨年、急遽演目変更となったものでしたね。

そう考えますと昨年も一世一代の知盛あり、帯状疱疹による休演ありと、随分心配な日々でした。近年の目覚ましいご活躍は本当にうれしいのですけれども、どうかご無理なさらず、お健やかな姿を長く拝見できればと願うばかりです。

 

そんな霊験亀山鉾の中ではやはり、焼き場の場面が印象深く残っています。ギラギラと光る藤田水右衛門の目が強烈でした。お腹に刀を突き刺された雀右衛門さんのおつまがとにかく本当に痛そうで、隣り合わせたご婦人方が小さく悲鳴を上げていらっしゃったほどです。

藤田水右衛門はさむらいなのですから、サッと斬って苦痛を少なくすればよいものを、女を捕えておなかの子ごと串刺しにし、なおかつおもしろそうにしているのですから恐ろしいですよね。

私は映像の痛い描写が結構苦手なので、歌舞伎でなければ何度も見ることはできなかったなぁと思います。仁左衛門さんは毎日お勤めになっていて、夜うなされたりしないのでしょうか。

 

その前の丹波屋の場面は、仁左衛門さん、雀右衛門さん、鴈治郎さん、吉弥さん、芝翫さんの細かなやりとりがおもしろく、映像で編集された時にはセリフの都合で映らなくなりそうな表情を細かく追いかけていました。

特におつまの愛想尽かしでは、仁左衛門さんの八右衛門の視線の動きが絶妙で、セリフのない中にも、嫉妬、疑念、優越感…などの心模様がありありとわかり、うならされました。

仁左衛門さんは藤田水右衛門のようなゾッとするような悪人も良いのですけれども、八右衛門のように社会の下層で道を踏み外したような悪者もとても良いですよね。とにかく良い、それにつきます。

 

それはそうと幸運なことに、千穐楽にて下げ売りの配りものをいただくことができました。2017年に国立劇場で上演された際にもいただきましたので、出して見比べてみたところ、少しばかり違ったのです。

こちらが2017年、

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こちらが2023年です。

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今回はこのように「仁左衛門似の男ぶり」などの文言が書き足されていたのでした。一世一代の舞台を盛り立てようという細かな心配りを感じて、胸が熱くなりました。

 

そしてもうひとつ思い出深いのは、二部の「船弁慶」。

何度も申しておりますが、本当に素晴らしかったです。鷹之資さんが60代、70代になられるまで生きていたいなあと思うような舞台でした。お父様と別れてより長らく、いつか歌舞伎座で船弁慶をお勤めになる日のことを思い描いて日々を励まれてきたのでしょうから、大きな評判となったのはご本人のたゆまぬ努力の賜物に他ならないだろうと思います。そんな大舞台を支えるご共演の方々の思いを感じ、生前の富十郎さんとの関係性も偲ばれ、美しいひと時でした。

 

鷹之資さんの舞踊は、マイムのうまさに加え、目線が確実に定まっているところがとても好きです。詞章で描かれる場面や役どころに応じて変化しながらも、ゆらぐことはなく全てが安定していて。その効果によって、良い意味で生身のご本人を感じることなく、自然に物語の世界に入っていけたように思います。

義経との思い出の風景が目の前にあるような静のまなざしと、義経の姿を捉えて離さない知盛の恨みのまなざし、どちらからもゆるぎない役の心を感じました。二階桟敷席の1番から拝見する機会があったのですが、静が扇で顔を隠すところで本当に涙をこぼしていらして。これにはつくづく胸を打たれました。

来月は鷹之資さんの「五十両…」を聞くためだけに京都へ行ってしまいたいくらいなのですけれども、厳しそうで、やきもきしております。今後のご活躍が本当に楽しみです。

 

さて、来月はどんな芝居が待っているのでしょうか。

楽しみに今夜は休みたいと思います。おやすみなさいませ。

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