桜の満開を前に東京は不安定な空模様ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。明日は冷えるようですので、ご自愛くださいませ。
このすえひろはといえば、連日WBCの試合をテレビで観戦しておりましたため、試合のない今夜はなにやら手持無沙汰でした。世の中が楽しげにワイワイしているようすがとにかく好きですので、こういったイベントには心が踊ります。このにぎわいが続くよう、この先は一試合でも多く侍JAPANのご活躍を拝見したいです。
さて、先日のお話ですが、歌舞伎座へ出かけまして三月大歌舞伎の第二部を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためたいと思います。
「天川屋義平は男でござる」
第二部は「仮名手本忠臣蔵 十段目 天川屋義平内の場」「新古演劇十種の内 身替座禅」という狂言立てでした。
「仮名手本忠臣蔵 十段目 天川屋義平の場」は上演頻度の少ない場面で、私自身も一回拝見したかどうか怪しいか…見た気はする…というような演目でした。家庭を犠牲にして塩冶家浪士に協力した義侠心の強い商人を描いたものです。
天川屋にある横置きの箱の中に成人男性の由良之助が隠れていたというのがおもしろいですよね。んなわけあるかと思わずツッコんでしまうのですけれども、これでGOになっているのが人形浄瑠璃ならではの発想だなと思います。
今回は芝翫さんが天川屋義平、孝太郎さんがその妻おその、幸四郎さんが大星由良之助という配役でした。そのほか浪人は千崎弥五郎に中村福之助さん、矢間重太郎に歌之助さん、竹森喜多八に坂東亀蔵さん、大鷲文吾に松江さんという配役です。
名ゼリフ「天川屋義平は男でござる」ですけれども、実際は「天川屋義平は男にごんす」とおっしゃっているようですね。芝翫さんの立派さは胸がすくようでもあり、また強い葛藤も感じ、さむらいではない商人の心を感じました。お姿も文楽人形のようで興奮しました。
そのほか印象に残っているのは歌之助さんのお化粧です。私が拝見した日は眉の太さといい口の割り方といい、白黒写真で見る昔の歌舞伎役者のようで素敵でした。研究熱心な方と聞いたことがありますので、もしかして古い舞台写真などを参考にされているのかなと。近ごろお若い世代の方々は小顔の方が多いですから、顔の作り方がとても難しそうですが、お化粧で気迫や貫録を表現することができるという発見がありました。今後も注目したいです。
「新古演劇十種の内 身替座禅」は、浮気がバレる恐妻家といった、いわゆる昔のユーモアを描いた舞踊です。
今回は山蔭右京を松緑さんが、奥方玉の井を鴈治郎さんがお勤めになっています。そのほか太郎冠者に権十郎さん、侍女千枝に新悟さん、侍女小枝に玉太郎さんという配役です。最も印象的だったのは権十郎さんの太郎冠者でした。権十郎さんの太郎冠者の上品さが、舞台のお笑いバランスを調整していたように思います。
本来は菊五郎さんが山蔭右京の役でご出演の予定で、脊柱管狭窄症の療養のため休演なさっています。菊五郎さんの山蔭右京は絶品ですから、お元気な右京を再び拝見したいものです。とりわけ菊五郎さんの右京と左團次さんの玉の井の組み合わせが大好きで、いつの日かまた拝見できるといいなあと願っています。
山蔭右京という役は素人目には激しい動きには見えないのですが、以前仁左衛門さんが意外と体がきつい役だとおっしゃっていたことが印象的です。今回お若い松緑さんによる大きな捻りの動きや、ゆったりとした滑りの動きで、そのきつさをなんとなく察することができました。至難の役どころなのだなと改めて思います。
また奥方玉の井といえば、同じく菊五郎さんの右京に吉右衛門さんの玉の井という配役を見たことを思い出しました。吉右衛門さんの玉の井はとても大きくて一見怖いのですけれども、上品で一途で、本当に可愛らしい女性に見えたのを思い出します。嫉妬にえーんと泣いているところなどは、なんだか健気でいじらしくなり、泣けてきたほどでした。菊五郎さんの右京の色っぽさダンディさとの相乗効果であったのでしょう。
その点でいえば松緑さんの右京は真面目で、きっと花子ともちょっと酒を酌み交わした程度で、プロにうまいこと騙されてしまっているのだろうな。鴈治郎さんの玉の井はそれがまた頭にくるのだろうなという、そんな想像をしました。夫婦はいろいろですね。