歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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歌舞伎座 三月大歌舞伎 第三部「髑髏尼」「廓文章 吉田屋」を見てきました!2023年

WBCで沸き立つ日々、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろも家族にルールを聞きつつ、わからないなりに楽しく拝見しています!母国に勝利してほしいという思いはもちろんありますが、それより試合を見るのがおもしろいので一試合でも多く見たいなというシンプルな思いです。

さて、先日のお話ですが、歌舞伎座へ出かけまして三月大歌舞伎の第三部を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。

福之助さんの名演

第三部は「髑髏尼」「廓文章 吉田屋」という狂言立て。いずれの演目にも玉三郎さんが御出演という豪華な機会です。

髑髏尼」は、歌人吉井勇が手掛けた非常に上演機会の少ない演目です。珍しい演目で楽しみにしていらっしゃる方も大勢おいでの事と思いますので、筋立てや演出などの詳細はお話を控えます。

簡単に申せば、平重衡との忘れ形見である寿王丸を亡くし、その髑髏とともに尼として暮らし「髑髏尼」と呼ばれた新中納言局の物語です。髑髏尼を玉三郎さんが、髑髏尼に想いを寄せる鐘楼守を中村福之助さんがお勤めになっています。

玉三郎さんが抱いていると、恐ろしげなしゃれこうべが愛らしい幼子に、そればかりかイメージの中の愛しき我が子までに見えてくるというのが芸の力の凄まじさですね。そのほか男女蔵さんの烏男も非常に印象に残りました。何やらよくわからない感情で泣けてくるような、悲哀に満ちた役どころを見事にお勤めになっていました。

 

福之助さんの鐘楼守はノートルダムの鐘のカジモドを彷彿とさせるような役どころで、こちらもどう考えても難役だと思われるところ、ご年齢を考えると本当に素晴らしいご活躍だったなあと思います。以前より福之助さんは気になる役者さんで注目していたのですが、こんなに長くお芝居を拝見できる機会は限られているので、玉三郎さんとのご共演で拝見できてとてもうれしかったです。

私が福之助さんの好きなところは、セリフにも舞踊及び動きにも力みのないところなのですが、この役からはその魅力が非常に良く感じられました。大声を張り上げたところで感情が伝わるわけではないというのが芝居のおもしろいところですよね。

 

髑髏尼はかなり好き嫌いが分かれる演目かと思いますが、私自身はかなり好きな演目でした。作者が歌人ということもあってか、せりふの表現が独特で、一語一語が研ぎ澄まされていたように思います。

 

続く「廓文章 吉田屋」は、打って変わって華やかな一幕。上方を代表する演目です。今回は藤屋伊左衛門に愛之助さん、夕霧に玉三郎さんという配役でした。

商家のぼんぼんが遊興三昧で勘当されるのだが、結果的に家のお金で恋人の夕霧を身請けしてハッピーハッピーというほのぼのとした演目です。それだけかというところなのですが、だめなぼんぼんを愛らしく、また色っぽく魅せることに役者さんの技が詰まっているんですね。私もこの演目は大好きです。

特に松嶋屋の型は十三代のものも映像で何度も拝見していますし、当代のものとにかく大好きですので、今回愛之助さんのお勤めで松嶋屋の伊左衛門が拝見できて本当に嬉しかったです。金と銀のシンプルな紙衣も素敵で、笠を外すまでのしぐさ、ちょっとした指の動きなど、見事に練り上げられていますよね。

 

愛之助さんの伊左衛門は生まれてこの方お金のことを意識したこともないような、嫌味のないぼんぼんぶりがとても可愛らしかったです。今後お年を重ねられ、さらに可愛らしくなっていくものと思われますが、今のお若さを残した伊左衛門を拝見できたこともうれしいことでした。

玉三郎さんの夕霧は言わずもがなの美しさで、黒い打掛を披露された時はもう客席中からさざめきが起こっていました。いわゆるジワというものでしょうか。あの打掛は拝見したことがないような気がするのですが、新調されたものなのかもしれませんね。美しいお姿でした。身長の関係と思いますが、仁左衛門さんとお勤めになる時よりも視線を下げてお勤めでしたので、お綺麗さに加えて愛らしさも感じ、たまらないひと時でした。

とにもかくにも、「髑髏尼」と「吉田屋」の上演順が逆でなくて本当によかったです。晴れやかな思いで劇場を後にしました。

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