東京では久しぶりの青空でしたね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。夜にはにわか雨があり驚きました。
このすえひろはといえば、遅ればせながら近所の桜をちらっと眺めてまいりました!ふんわりとした桜の木の下に敷物を敷いて、お酒を酌み交わす方々の姿も多くあり、久方ぶりの春の風情に心が浮き立ちました。
近ごろは義経千本桜や助六由縁江戸桜、道成寺など、桜の大道具が登場する演目を拝見する機会がとても多かったため、素晴らしい桜をしょっちゅう見たような気になっていましたが、やはり生きた桜の花というのも良いものですね。
昨日歌舞伎座の三月大歌舞伎 第二部で上演されていた「仮名手本忠臣蔵 十段目 天川屋義平の場」にちなんだ浮世絵をご紹介したのですが、もうひとつ素敵なものを見つけましたのでご紹介いたします。
三代豊国「誠忠義士伝」より 四代目尾上菊五郎の天川屋女房お其
天川屋義平の妻・おそのさんを演じる四代目尾上菊五郎を描いたものです。昨日に引き続き三代豊国、いわゆる歌川国貞の作品です。おその単体の浮世絵を拝見したのは初めてですので、需要があったのだなあと驚きました。
誠忠義士伝之内 四代目尾上菊五郎の天川屋女房お其
国立国会図書館デジタルコレクション
三代豊国の「誠忠義士伝」というのは、仮名手本忠臣蔵の登場人物を人気の歌舞伎役者に見立てたシリーズ作品です。同門の国芳にも同じタイトルの作品がありますが、こちらは本物の義士とそのエピソードを描いたものです。三代豊国は役者絵を得意としていた人ですから、歌舞伎役者に見立てることで、よりポップな作品に仕上がっています。
上部に文言が書いてあり、おそののエピソードがつづられています。浮世絵閲覧システムに文言が記されていました。
そのは儀兵衛におとらぬ気性なれども
実父良竹は高野の廻し者なる事
義兵衛これを知りつひにりべつす
おその我子にひかされふたゝひ
わが家えもどりしゞうのようすをきゝ
仇うちの後義士ぼだいのためていはつすといふ
確かに実父了竹は高師直ゆかりのものではありましたが、はっきりと「回し者」で、かつ「それを知って離別した」という流れだったかな?と少し疑問に思いました。きっと江戸時代当時から現行の上演にいたるまでに、徐々に変化していったのだろうと思います。
描かれている四代目尾上菊五郎は時代物を得意とした役者で、しっとりと気品があったようです。であるからこそ、セリフ回しがべたついているという評判もあったそうで、伝法な役どころは得意ではなかったとのことです。我々が菊五郎という名跡で想像するスカッとした江戸っ子の代表のような役者ぶりとは少し違ったようですね。
現代人の目ではどうしても名跡のイメージが先行してしまい、それを基にどうのこうのと判断してしまいたくなりますが、やはり役者さんも個人の人間ですから、どうあるべきとも言えないんだなあと反省しました。