歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい与話情浮名横櫛 その十四 ちょっとくわしいあらすじ ④源氏店の場

ただいま歌舞伎座で上演中の鳳凰祭四月大歌舞伎

現在の第五期歌舞伎座が開場から十周年を迎えた記念の公演です!

夜の部で上演されている「与話情浮名横櫛」は、ともに人間国宝であり長年のゴールデンコンビでもある仁左衛門さんと玉三郎さんが主役の与三郎とお富のカップルをお勤めで、話題を呼んでいます。

この演目については過去の上演の際にお話したものはこちらにまとめましたので、ご参考にしていただければと思います。ここでも全体のあらすじを簡単にご紹介しているのですが、表面的なことばかりでお話し足りないので、せっかくですからこの機会に詳しくお話しておきたいと思います。何らかのお役に立つことができれば幸いです。

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そもそも与話情浮名横櫛とは

与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)は、1853年(嘉永6)1月 江戸・中村座で初演された、三代目瀬川如皐作のお芝居です。

商家の若旦那・与三郎が、土地で幅をきかせている危険な筋の男 赤間源左衛門の女 お富といい仲になったために、取り巻きから体中を刃物でズタズタに傷つけられてならず者となるのだが、数年後お富と再会してしまい…というハードなラブストーリーであります。

ちょっとくわしいあらすじ④源氏店の場

物語は大きく「木更津海岸見染の場」「赤間別荘の場」「源氏店の場」の三つの場面で展開していきます。下記の全体の流れに沿ってお話したいと思います。

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演出や様々な条件の変化で、内容が変わったり前後したりすることがあります。その点は何卒ご容赦ください。

 

③赤間源左衛門別荘の場

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場面は変わりまして、源氏店の場に移ります。

源氏店(げんじだな)というのは、江戸人形町にあった「玄冶店(げんやだな)」という町をもじって、鎌倉雪の下の源氏店に置き換えた町名です。玄冶店というのは、近隣の日本橋で商いをする人々が妾を囲っておく妾宅などがありそうな、閑静な住宅街であったようです。

舞台の上にも、粋な黒塀の妾宅の大道具が建てられています。それなりの立場の人が妾を囲っていると思しき風情の外観であります。

 

赤間源左衛門別荘の場からこれまでの間に、3年の月日が流れている…という設定です。

与三郎が受けた激しい暴力行為を聞かされ、おまけに海松杭の松五郎から迫られて海に身を投げたお富は、たまたま行きかかった船に助けられて一命をとりとめました。

お富を助けたのは、和泉屋多左衛門という男。日本橋の横山町の大店・和泉屋の大番頭さんです。大きなデパートの総支配人といったようなところでしょうか。

デパートというと語弊がありますが、とにかくそれなりに立派な立場にある人のもとで、お富は何不自由なく暮らしているようです。一方与三郎は、きっとあのまま死んでしまったんだろうなあ…と思われるところから場面が始まります。

 

この日はあいにくの雨降りで、和泉屋の手代の藤八という男が、多左衛門妾宅の黒塀で雨やどりをしています。手代というのは番頭さんと丁稚の間あたりの立場ですが、和泉屋は大店だそうですから、藤八さんは中堅どころの正社員といったイメージかなと思います。

そこへ、下女のおよしと連れ立って、お風呂屋さんから帰ってきたお富。風呂上がりで長い髪をまとめ、なんとも色っぽい風情です。お富は雨やどりをしている藤八の姿に気づき、妾宅の中で多左衛門を待つようにと誘いました。

「お富は誰もが惚れてしまう美人」というのがこの物語における大前提ですから、藤八ももちろんお富に惚れています。ですので、誘われるままのこのこと妾宅へと入っていきます。

 

舞台がぐるぐると回って、大道具は妾宅の内観に移ります。大店の大番頭さんの妾宅とあって内観も非常に風情があり、お富はお風呂上がりのお化粧をしながら藤八にお茶を出させたりしてもてなします。お化粧の手順も女形の役者さんのの魅力が光る見どころですので、ぜひよくご覧ください。

藤八としては上司の妾宅でお妾さんと過ごしているのですから、あまり長居をするのも憚られる場面です。しかし多左衛門というのはあまりそういったことを気にしない器の男であり、物堅い人であるらしいことがお富およし藤八の会話から伺えます。

 

さらに藤八の話では、多左衛門お富を養いながらも妾としてオープンにすることなく、正妻にすることもないうえ、「どこか嫁にもらってくれるところがあれば行かせてやりたい」とさえ言っているのだそうです。それを聞いたお富も、「そうなんです、私たち肉体関係は一切ないんですよ」ということをぷんぷん匂わせてきます。

多左衛門お富の色っぽい話をうらやましく聞きたいような、そうでないなら自分が貰いたいような。一体どういう関係性なのか今一つよくわからないので、藤八もなんやかやと下世話な興味を持ってしまうんですね。ゴシップ好きの心理ではないでしょうか。

社会的立場のある男性が美女を養いながらも関係を持たなかったとて、それはそれで自由です。あくまで江戸の人の感覚では、解せないものであるということであります。と、そこへ、なにやら謎の二人組が現れたあたりで次回に続きます。

 

参考文献:白泉社 歌舞伎オンステージ 与話情浮名横櫛

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