ただいま歌舞伎座で上演中の三月大歌舞伎!
昼の部「渡海屋・大物浦」のお話をしております。
あらすじ前編・中編はこちらです…
ざっくりとしたあらすじ 後編
ここでまた場面は変わり、大きな岩のある大物浦であります。
岩の上には大きな碇が置かれていて、もの寂しい海辺の風景です。
※イメージ
まさに満身創痍、血だらけの知盛がものすごい形相で安徳帝の行方を尋ねながら大物浦へとやってきました。
何を捨てても帝をお守りせねばならない知盛なのです。
敵方をバッサバッサと斬り倒しながら、ただひたすらに帝を探しています…
そんな知盛の前に憎き敵の義経主従が現れました。
なんと安徳天皇・典侍の局も一緒ではありませんか!
もはや瀕死の知盛でしたが、これは一大事。二人を取り戻さねばと義経に打ちかかろうとします。
義経はそんな知盛を「安徳帝は必ずお守り申し上げる。安心しなさい」と諭しますが、
壇ノ浦で滅びた平家一門の恨みを晴らしたい知盛の胸には届きませんでした…。
そこへ弁慶がやってきて知盛に数珠をかけ、恨みの心を捨てて出家しなさいと諭します。これはお坊さんである弁慶の、知盛への配慮でありました。
しかしこれを受けた知盛は落ち着くどころか、数珠を引きちぎるほどに怒り狂います!
長い長い戦いを経て、壇ノ浦で滅ぼされた平家。散って行った人々の無念を思う知盛が、源氏方に促されてすんなり出家など絶対にできるはずがないのです。
「生き変わり、死に変わり、恨みはらさでおくべきか」と、全身全霊の執念でもって襲い掛かろうとします。
そんな知盛の悲壮なようすを見ていた安徳天皇…
これまでの知盛の守護に深く感謝するとともに、
自分を助けようという義経の情けを汲んで「仇に思うな、知盛」と
幼いながらに思慮深い言葉を知盛に投げかけるのでした。
それを聞いた典侍の局は平家方という身の上を慮り、義経に帝を託すと、懐剣で我が身をひと突き。あえなく自害してしまうのでした…。
そんな安徳帝の思いと典侍の局の死によって、怨念に囚われていた知盛の心が動くのです。
安徳帝の母方のおじいさんは知盛の父である、亡き平清盛。
散々の苦難に遭ってきたのも、清盛がその地位を利用して横暴な行いをした報いなのだ…と、この世の虚しさを嘆き悲しみます。。
恨みの消えた知盛は義経に安徳帝の守護を頼むと、瀕死の体で岩に這い上がり…
岩の上にある大きな碇の網を、体にぐっと結び付けました。
残った力を振り絞ってぐぐっ…と重い碇を担ぎ上げると、そのままドボンと海へ放りこみ、
「おさらば」という言葉を残して身を投げ、壮絶な最期を遂げたのです。
義経は安徳帝を大切に抱きかかえ知盛の冥福を祈って去ってゆきます。
弁慶の吹く法螺貝の音が、知盛の死を悼むように鳴り響きました…
と、ここまでで「渡海屋・大物浦」は幕であります。。
前・中・後とかなり長くなってしまい失礼いたしました。
パブリックドメイン美術館より 歌川国芳「大物浦にて義経主従と戦う平知盛の霊の海中の陣」
歌舞伎にはとんでもなく悲しい気持ちになる演目が多いのですが、
これはその中でも最も重々しくつらい場面といえるのではないでしょうか。。
屈指の名場面として知られていますので、今月お見逃しになった方もぜひまたの機会にご覧になってみてくださいね。