ただいま歌舞伎座で上演中の三月大歌舞伎!
昼の部「渡海屋・大物浦」についてお話してまいりました。
長く悲壮なあらすじにお疲れかもしれませんが、もう少しお付き合いいただければうれしく思います(人'v`*)
あらすじはこちら…
やさしい渡海屋・大物浦 その一 これまでのお話&簡単なあらすじ 前編 - 歌舞伎ちゃん 二段目
やさしい渡海屋・大物浦 その二 簡単なあらすじ 中編 - 歌舞伎ちゃん 二段目
やさしい渡海屋・大物浦 その三 簡単なあらすじ 後編 - 歌舞伎ちゃん 二段目
仁左衛門さんの芸談
新中納言知盛というのは大変な難役として知られていますけれども、
役者によって型の工夫の余地が比較的多めに残されているのだそうです。
今月知盛をお勤めになっている片岡仁左衛門さんも、さまざま工夫なさってきた方のひとりです。
芸談本にこの役をお勤めになるうえでの仁左衛門さんの思いがたくさん書かれていましたので、その中から少しばかりお話したいと思います(´▽`)
登場の謡をカット
障子がスッと引かれて白装束の新中納言知盛が姿を現す場面では通常、
能掛かりで「そもそもこれは桓武天皇九代の後胤、平知盛幽霊なり」という謡が入ります。
しかし仁左衛門さんはここをカットし、能を匂わせる太鼓を入れるのみとしているとのこと。
この謡の部分で舞台の上の芝居がストップしてしまうことよりも芝居の流れやテンポを重視し、
早く眼目のクライマックスへもってゆくために枝葉の部分をなるべく省くということが目的なのだそうです!
同じ理由で、寝ている娘のお安をまたごうとして弁慶の足がしびれる部分もカットされています。
矢を引き抜いて自らの血を舐める
まさに満身創痍、瀕死の知盛が現れる大物浦の場面。
仁左衛門さん演じる知盛はこのとき自らの脇腹に刺さった矢を引き抜き、その血を舐めて喉の渇きを潤します。
まさに凄惨の極みというショッキングな場面です…
これは、實川延若の型を取り入れているとのこと。
薙刀についた血を舐めるという型を採用している方もおいでのようですが、
自らの矢を舐める方が凄惨さが出ると思われての選択だそうです。
それに人の血を舐めるより、自分の血の方がいいもんね(笑)
とお茶目な発言もなさっています(*´艸`)
「有難い」「忝い」ではなく「心地よい」
安徳帝の言葉と典侍の局の死をもって怨念や執念がスッと抜け、
敵であった義経に帝を託して心の安らぎを得る知盛。
そんな場面に「昨日の敵は今日の味方、アラ嬉しや心地よやなぁ」とのセリフがあります。
仁左衛門さんはこの「心地よい」という気持ちに大きなこだわりをお持ちのようです。
この人は成仏するという確信のもと、全身全霊がすーっとするような透明感のある泣き笑いを表現できるよう心掛けているとのこと。
また、この少し前からだんだんと目が見えなくなってきたというように演じておいでだそうです。死へ向かう知盛の、仁左衛門さんならではの悲壮美であります。
ここでも
この以前に死んでいたら地獄行きやね(笑)
というお茶目な発言をなさっていましたよ(´▽`)
仁左衛門さんは一語一句にいたるまで丁寧に義太夫を読み取り、緻密に緻密にお芝居を演出してゆく方ですから、
「渡海屋・大物浦」だけでもここには書ききれないほどたくさんのお話があります。
芸談本はファン必携の片岡仁左衛門写真集に同梱されていますので、ご興味をお持ちの方はどうぞお求めくださいね(人'v`*)
超・超・超高級品でありますが、それ以上の価値を感じます…!!
歌舞伎名作選 義経千本桜
仁左衛門さん演じる「渡海屋・大物浦」は、ありがたいことに歌舞伎名作選のDVDに収録されています。
今月お見逃しになった方も、ぜひご覧になってみてくださいね!