ただいま上演中の四月大歌舞伎から昼の部「伊勢音頭恋寝刃」についてお話してきました。
歌舞伎には、独特の言葉やお約束などがいろいろとあります。
なにかのとっかかりがあると芝居はもっと楽しくなるはずですので、
「伊勢音頭恋寝刃」の主人公・福岡貢にちなんだ言葉をひとつお話したいと思います。
ひとつ覚えていただけたらうれしく思います
柔らかさの中にキリッとした男気
福岡貢は油屋の座敷にて身に覚えのないことでお鹿に騒がれ、
万野からは憎らしいことを次々に言われ、
その上、馴染みのお紺からはみんなの前で愛想尽かしをされ・・・
もう散々な状況のなか胸の内にぐぐぐぐぐっと怒りを募らせてゆく姿が大変色っぽく映ります
カッとなって羽織を脱ぎかけるときの「万呼べ万呼べ万野呼べ」という張り詰めた台詞も有名です。
この貢のように、色男らしく線の細い柔らかな色気を持ちながらも、
ナヨナヨと女性的になりすぎることなく、
立役らしいキリッとした強さを秘めている役どころの事を
ぴんとこなと呼びます。
ぴんとこなは上方狂言の和事と呼ばれる演出様式のうちの一つです
もうひとつの「つっころばし」という役柄については以前お話していますので、
ぜひご一読ください
難しい役どころ
貢は「辛抱立役(しんぼうたちやく)」とも言われ、
敵役からいじめられるのをじっと耐え忍ぶようすは相当な演技力がないとつとまらないと言われています。
このお役は実在の殺人犯・宇治浦田町の孫福斎宮(まごふくいつき)というお医者さんがモデル。
事件の概要をとても簡単にお話しますと…
馴染みの遊女が別の座敷に移ったことで不機嫌になり、
帰りがけに脇差を渡したお万という下女に斬りつけ、
騒ぎを聞きつけてやってきた人々を次々に斬り殺した
のだといいます。
人相書きによるとかなりの良い殿御であったのだそうですから、
プライドが許さずカッとなったのかもしれませんね…恐ろしいお話です
御師である福岡貢も、実は元武士という設定。
胸の内に強い意志とプライドを秘めているということに納得がゆきます。
お勤めになるのがかなり難しい役柄とのことですので、
上演のある際には心して拝見したいものですね!
私は一応江戸っ子ですが、上方の和事と呼ばれるものが大好きです。
個人的な好みでいうと頼りなくナヨナヨとしたつっころばしが好きですが、
一般的にはおそらくぴんとこなの方がモテるのではないかなぁと思います