歌舞伎座ではふた月にわたって
高麗屋さんの三代襲名披露がにぎにぎしく執り行われ、
先日無事に千穐楽と相成りました。
今月の新幸四郎さんの襲名披露狂言として上演された
「一條大蔵譚」にちなみまして、
歌舞伎の演出用語についてのお話をひとつしてみたいと思います。
なんらかのお役に立てればうれしいです。
ドドーン!ババーン!というイメージで
阿呆だと思われた一條大蔵長成がその本性をあらわす場面で、
衣装がババッと変わって全く違った出で立ちになるという演出がありました。
これを歌舞伎の用語では「ぶっかえり」と呼んでいます。
衣装の上半身の部分を肩で縫いとめている糸を後ろからサッと引き抜いて、
布を一瞬のうちにぱらりと腰の方へひるがえし、あざやかに変化させているのです。
オペラグラスでよく見ると確認できるのですが、
ぶっかえる前は肩のあたりがかなり荒めにざくざくと縫われ
糸の先端に丸い突起のようなものがついていて
黒子の方がその突起を持って一気にするっと抜いているようです。
こうすることによって、
・これまで隠していた身分や性根をあらわした!
・人に見えたけれども実は化け物だった !
・普通の人だと思ったらとんでもない大悪党だった!
…などという見顕しと呼ばれる場面をこれでもか!!と強調します。
古典歌舞伎はネタバレが常であり、
あらすじなどにもしっかり明記されているので、
「えぇ~!阿呆だと思っていたのに~!
いま衣装が変わったから性格が変わったことに気付いたよ~!びっくり~!」
などという風に作用することはほぼないのですが、
それでもやはり舞台の上に別の衣裳が鮮やかにあらわれればハッとして、
おおおおおと気持ちが高揚します!
「お約束」を楽しく盛り上げているようなイメージです。
現代劇であればリアルな芝居によって表現するところを
衣装から大げさに変えてしまおうという発想がおもしろいですよね。
「ぶっかえり」という語感もなんだか粗野な雰囲気で
「あすこはバーンとぶっかえってよォ」などと
昔の歌舞伎役者たちが話していたのかなぁと想像するとワクワクしてしまいます。
まったく無関係ですがぶっかえりという言葉を聞くたびに
マキシマムザホルモンの「ぶっ生き返す」という曲を思い出し
とても懐かしい気持ちになります。
思えば昔から日本語で自由自在に遊ぶような音楽が大好きでした。
かっこいい曲ですので、ご興味をお持ちの方はぜひお聞きください!
参考:新版歌舞伎事典