ただいま歌舞伎座で上演中の七月大歌舞伎!
昼の部「三國無雙瓢箪久」は、
海老蔵さんと勸玄くんの共演でメディアでも大いに話題を呼んでいる演目です。
この演目にちなんだ歌舞伎の用語についてのお話をひとついたします。
芝居見物の楽しみのお役に立てればうれしく思います。
「猿」の出世物語
小者から天下統一の大出世を果たした豊臣秀吉の物語は、
とても夢があるもので、現代でも大変人気がありますね!
このお話は戦国時代のような天下取りの争いが終わった
江戸時代においても人々の心をつかみ、
伝記「太閤記」や小説「絵本太閤記」などが大いに売れていたようです。
書籍が売れれば、舞台化・映像化など
さまざまなメディアに展開して売ろうとするのは江戸時代も同じこと。
この題材は人形浄瑠璃や歌舞伎にもどんどん輸入されました。
こうした秀吉の出世物語を描いた演目は、
元ネタ本のタイトルにちなんで「太閤記物」と呼ばれています。
太閤記物の代表的な演目は、
「金閣寺」の通称で知られる名場面のある「祇園祭礼信仰記」や
「太十」の通称で知られる名場面のある「絵本太功記」などであります。
絵本太功記は光秀がメインですので少しばかり趣は異なります。
時代劇ドラマや映画で描かれる豊臣秀吉といえば
ある意味ではごますり上手…とも思えるような人懐っこさや
金ぴかギラギラの環境でガハハと笑っていたりするようなイメージがありますが
芝居において現代まで繰り返し上演されている場面に登場する
秀吉というのはそんな豊臣秀吉像とは少しばかり違った印象です。
個人的にはかなり幼い頃に見た大河ドラマの
竹中直人さんの秀吉が強烈なイメージとして残っていますが
ああいった秀吉像はいつごろから形成されていったのか非常に興味深いですね。
明治維新、敗戦、財閥解体、高度経済成長など
様々な苦難を乗り越えてきた近現代の人々の心をつかむべく
「大出世!!!」を印象付けるため変化していったのかもしれませんね。
または、江戸時代よりははるかに、
「誰もが出世のチャンスを手にすることができる世の中」になったからともいえます。
そう考えると、
夢物語のような出世を遂げた秀吉像よりも
ミステリアスな謀反人の光秀の方が
芝居のキャラとしてリアリティがあり人気があったのかもしれないと想像できます。
そして昨今はまたも世相が変化し、
「仕事での出世にこだわらない世の中」になりつつあります。
それに伴い、今後の秀吉像も変化していく可能性がありますね。
長期的に注目していきたいと思います。