歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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歌舞伎のデザイン:「紙衣」ざわりが荒い、荒い…

歌舞伎座で上演中の壽 初春大歌舞伎

昼の部「廓文章」では歌舞伎のお約束のあるデザインが見られますので、

ひとつご紹介したいと思います。

目にも美しい歌舞伎の世界をよりお楽しみいただけたら幸いです!

恋文でできたロマンチックな着物

藤屋伊左衛門夕霧太夫のラブラブぶりを見守る「吉田屋」こと

廓文章(くるわぶんしょう)

ざっくりとしたお話の内容はこちらをお読みください。

www.suehiroya-suehiro.com

 

伊左衛門さんは藤屋という豪商の若旦那。

それはそれはとんでもない大金持ちであったわけですが、

あまりの放蕩ぶりに勘当されすっかり落ちぶれてしまいます。

しかし夕霧が病気になったと聞いて、吉田屋へ訪ねてくるのです。

 

しかし吉田屋の店先では、

お前のようなみすぼらしい奴が来るところではないぞ!

と若い衆たちに怒られてしまいました。

 

一見綺麗な身なりの伊左衛門さんですけれども、

実は「みすぼらしさ」のシンボルのようなものを身につけております。

こちらの浮世絵をご覧ください…

f:id:suehirochan:20190120192317j:plain

国立国会図書館デジタルコレクション

 

なにやら文字が見えませんでしょうか?

実はこれは「夕霧からの恋文」という設定。

お金がないのでラブレターをつなぎ合わせて衣にして着ているわけなのです。

松の位の遊女からの恋文、寒々しい勘当の身には心あたたまりそうな着物です。

 

こういった紙の衣をイメージした衣装を紙衣(かみこ)と呼んで、

歌舞伎の世界では「落ちぶれた」「うらぶれた」「身をやつしている」

といった役どころをあらわすお約束となっています。

紙の着物なんて寒々しい…かわいそうに…というところです。

 

そんな紙の着物でも、

紙衣ざわりが荒い、荒い…」とたしなめる伊左衛門さんのせりふは

育ちの良さを伺わせながらもふふふと笑えるものであります。

 

しかし、実は紙でできた着物というのは、

麻や絹のように風をひゅうひゅうと通さないので実に暖かく、

古くから防寒具として使われてきたのだそうです!

なんと絹よりも高価なものもあったといいます。

 

歌舞伎の世界ではあくまでもお約束、演出のおもしろさといったところ。

もちろん舞台の上の役者さんは布でできた「紙衣」の衣裳をお召しですよ!

 

参考文献:歌舞伎の衣裳/新版歌舞伎事典/歌舞伎登場人物事典

演目別歌舞伎の衣裳―鑑賞入門

演目別歌舞伎の衣裳―鑑賞入門

 
新版 歌舞伎事典

新版 歌舞伎事典

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