先日いよいよ開幕した八月花形歌舞伎!待ちに待った再開であります!第三部で上演中の「吉野山」について、少しばかりお話してみます。
感染予防の観点から今回は筋書の販売が行われず、簡易版の配布のみになっていましたので、今回初めてご覧になる方にとって何らかのお役に立てればうれしく思います。
「軍物語」で語るのは
吉野山(よしのやま)は、三大狂言に数えられる義経千本桜の四段目にあたる道行の場面「道行初音旅」が、様々なアレンジを経て歌舞伎舞踊化されたもの。とにかく上演頻度が高く、繰り返し繰り返し上演されている人気の歌舞伎舞踊です。
その四では、見どころのひとつされている「女雛男雛」のシーンについてお話いたしました。
女雛男雛のくだりからしばらく進みますと、忠信が切り株に義経から賜った鎧を飾り、静がその鎧の上に鼓を置いて義経の顔に見立て、義経やこれまでの戦の思い出に思いを馳せるパートへと移ってゆきます。
この鎧を賜ったのは、義経の身代わりとなって命を落とした兄の継信の忠義一途なはたらきによるものであったので、源平合戦の日々を思い起こす忠信…
これまでの清元とは異なる竹本の重厚な語りで「思いぞ出づる壇ノ浦の」と聞こえてきますと、「軍物語(いくさものがたり)」あるいは「物語(ものがたり)」と呼ばれる演出のパートに突入していきます。
「軍物語」と申しますのは、人物が経験した戦の模様を竹本の語りと三味線に乗せて聞かせる演出のこと。まるで文楽の人形のような独特の関節の動きが見どころの一つです。
ここで忠信が静に語って聞かせているのは、おごれるものはひさしからず栄華を極めた平家が源氏に滅ぼされた「屋島・壇ノ浦の戦い」の模様であります。
具体的には、
・平家の悪七兵衛景清が兜の錣を引きちぎったという錣引伝説
・都で一番の剛腕で知られた能登教経の弓から命をかけて主君を守った継信の最期
というものです。
カッコよく披露される忠信の軍物語。そんな壇ノ浦の戦いで義経は大活躍したにも関わらず、兄頼朝から疎まれて都を追われることになってしまったのです。忠信と静にとっては、悲しいことに違いないと思います。
個人的な話ですが、この「軍物語」のなかに\ムフフフフ/ \ワハハハハハ/と手を広げながら笑うシーンがありまして、初めて拝見した際、なんだろうこのくだりは…とツボに入ってしまって少しもらい笑いをしてしまったことが思い出されます。
いまではあの独特のカッコよさが癖になり、音楽といい動きといいたまらないなと感じています。「軍物語」は「熊谷陣屋」など他のお芝居でも見ることができますので、機会がありましたらぜひご覧になってみてください!
参考文献:新版歌舞伎事典/ブリタニカ国際大百科事典/舞踊名作事典/日本舞踊曲集成/松竹歌舞伎検定公式テキスト/歌舞伎登場人物事典