歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい義経千本桜 吉野山 その六 逸見藤太と花四天

先日いよいよ開幕した八月花形歌舞伎!待ちに待った再開であります!第三部で上演中の「吉野山」について、少しばかりお話してみます。 

感染予防の観点から今回は筋書の販売が行われず、簡易版の配布のみになっていましたので、今回初めてご覧になる方にとって何らかのお役に立てればうれしく思います。

逸見藤太と花四天

吉野山(よしのやま)は、三大狂言に数えられる義経千本桜の四段目にあたる道行の場面「道行初音旅」が、様々なアレンジを経て歌舞伎舞踊化されたもの。とにかく上演頻度が高く、繰り返し繰り返し上演されている人気の歌舞伎舞踊です。

 

その五では、忠信が源平合戦をカッコよく語る「軍物語」についてお話いたしました。

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軍物語が終わりますと舞台の雰囲気は一変、突如花道から派手な格好をした集団が現れて静と忠信にからみ、こてんぱんにやっつけられる…という展開に。静と忠信は義経のもとへ急ぎ、吉野山はそのまま華やかに幕切れを迎えます。

 

派手な格好をした集団というのは、逸見藤太(はやみのとうた)と花四天(はなよてん)の面々です。

逸見藤太は半道敵と呼ばれる役でコミカルな三枚目の敵役。義経一行の追っ手なのですが、そんな緊張感をまったく感じさせない人物です。敵でありながらなごませてくれるキャラクターで、個人的に大好きな役どころであります。

一方、花四天と申しますのは、華やかな場面でおおぜい登場する捕り手や軍兵のこと。暖色系で揃えたかわいらしい花柄の四天を着て、花の枝や花槍を持って現れることからそう呼ばれます。本来であれば捕り手や軍兵はもっとものものしい恰好をしているはずですが、その出で立ちのおかげで舞台がパッと明るくなります。

 

逸見藤太のパートはもともと二段目の伏見稲荷の段で演じられていたものでしたが、幕末になって四段目だけを上演する機会が生まれたことで、この道行の最後に流用されてきたという経緯があります。

実は伏見稲荷の段で逸見藤太は殺されているはずで四段目の道行に登場しているのはおかしいのですが、コミカルかつ華やかな味わいにより吉野山はよりいっそうおもしろく仕上がっています。おもしろさのためなら理屈には囚われない昔の人のセンスというのは素晴らしいものだと感服いたします。

 

「落人」の通称で知られる仮名手本忠臣蔵のおかる・勘平の道行「道行旅路の花聟」も非常に似た展開を経ており、逸見藤太のような半道敵として鷺坂伴内という人物が出てきます。

どちらも三大狂言ということもあり、うっかり者ゆえ逸見藤太と鷺坂伴内を言い間違えてしまうことがよくあり困っておりましたが、逸見藤太は厚着、鷺坂伴内は薄着で手桶を持った花四天を従えているという違いがあるということを近ごろ発見いたしました!

もし同じ悩みをお持ちの方がいらしたら、ぜひご活用ください!

 

参考文献:新版歌舞伎事典/ブリタニカ国際大百科事典/舞踊名作事典/日本舞踊曲集成/松竹歌舞伎検定公式テキスト/歌舞伎登場人物事典

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